王都に向けて2
フレイとラトの声へ向かって歩く。
段々と近付くに連れて違和感を覚えた。ラトの話している相手はフレイの筈。だとしたら、今聴こえてくるラト以外の女性の声は何だ?
「だからさっきから言ってるでしょ。かさ張る荷物は要らないって」
「いや、だがな。森の仲間がくれた物は大事にしたいのだ」
「そう言ってくれるのは嬉しいけど。全部は持っていけないわよ」
今の会話の内容で殆ど誰かは分かったが、一応確認のため見つからないように顔を見ようとした。だが、上手いこと見えず更に一歩踏み出した時、バキッと足元の枝を踏んでしまった。次の瞬間には俺の首にフレイの爪が当たっていた。
「サーシャか……危うく首を落としかけたぞ?」
「か、勘弁してくれ…」
首を落としかけたと言ったときのフレイは本気だった。鳴り止まない心臓を落ち着けるようにフレイとラトに話しかける。
「邪魔しちゃってごめん…」
「いや、気にするなラントかディベルが呼びに行ったのだろう?」
その言葉に頷きながらフレイが人化している姿に見惚れた。均整の取れた顔に、呑まれるような黒い瞳、深い黒に一房だけ白が混じった髪、褐色の肌に、スラッと伸びた手足、どれを取っても美しい。数秒言葉に詰まっていると、怪訝な顔をしたフレイが目の前に来ていた。
「おい、お前。我に欲情したのか?」
「い、いやいやいや!違う違う!ただフレイが綺麗だなって思っただけで…」
言いかけた途端背筋に悪寒が走った。
「サード、フレイが魅力的なのは分かるけどね。私の義理の親を目の前で口説くのはどうなのかしらね?」
その後、平身低頭で謝り許して貰った。
「荷づくりはどれくらい終わってるんだ?」
「…半分くらい?」
「いいえ、半分以下よ」
俺の問いに答えたフレイの言葉をバッサリ切って、正確な答えを言うラト。
「我の持っていく物にケチを付けるから悪いのだ」
「違うでしょ?フレイが不必要な物ばかり持っていこうとするからでしょ」
「だから、何度も言っているだろう!あれは大事な物だ!」
「待ってくれ。そもそもフレイは何を持っていこうとしていたんだ?」
言い争いに発展しそうな所を何とか止め、疑問に思ったことを聞いた。
「……ラトの作った物や森の仲間から貰った贈り物を持っていこうと思っていたんだ」
フレイは少し恥ずかしいのか、間を空けてから理由を話した。
「成る程、そう言うことか。それで、ラトは何で反対したんだ?」
フレイの言い分を聞き今度はラトに問う。
「私も大事にしてくれるのは嬉しいけど、フレイの持ってる袋に贈り物全部を入れると、他の物が入らなくなっちゃうのよ…」
ラトは少し言い過ぎたと思っているのか歯切れが悪い。双方の意見を聞いたがどっちの言いたいことも持って行きたい理由も分かる。なので、俺は解決策を提示した。
「ラトはフレイの荷物袋に必需品が入らないのが問題なんだよな?」
「ええ」
「フレイは大事だから置いて行きたくないんだよな?」
「うむ」
「なら、俺の持ってる荷物袋を渡すよ」
「いいのか?お前の荷物はどうする?」
「そもそもなんだけど、俺の荷物ってフレイに最初に会った時に殆ど破壊されてるんだよね」
「あ…そ、それはその、我が悪かった……」
「サードは荷物袋が余ってる、フレイは荷物袋が足りない、だから双方合わせれば確かに丁度よくなるわね」
その後、申し訳なさそうに刷るフレイに荷物袋を渡し、テキパキと荷物を纏め、旅立ちへの準備は終わった。
明日はいよいよ出発。ワクワクしながら俺は眠りについた。