ラトとフレイの過去2
人間の行ったあまりの事に、我の視界は真っ白になった。遠くで、我が子を仲間を奪われ、怒り狂う魔獣の声が聞こえる。ボヤけた視界で人間を見る。怒りと悲しみの混じった咆哮を聞き、手を叩いて笑っている。何が面白いのか、我には分からない。
我の中で何かが壊れた。最初から分かっていたことだ、知能ある魔獣と人間では力量に差が在りすぎる。つまり隷属魔法などは、振り払おうと思えば振り払えるのだ。人間達はそれを知らなかったのだろう。隷属させれば自分達の勝ちだと思っていたのだ。そこからは一方的だった。隷属魔法を振り払って襲い掛かった我等に、応戦しようとした人間が武器ごと細切れに成り。それを見て逃げようとした人間が炭になり、魔術を唱えた者は口から凍って死んだ。最後に残った交渉役の男は、恐怖のあまり糞尿を垂れ流しながら赦しを求めていた。
「許してくれ…私も言われて仕方なかったんだ!」
『随分と楽しそうな様子だったがな』
「ち、違う!国王がそうしろと言ったのだ!私は反対した!」
この男の言っている事は嘘だ。確かに国に言われたのは事実だが、我等の子供を殺したのはこの男の勝手な行動だ。話を聞くのも耐え難かった。殺そうと力を込め振りかぶると、離れた位置から子供の声が聞こえた。何故か気になった我は、一度殺すのを止め声の方へと向かった。
『ここで何をしている?』
「ひっ、たべないで…」
酷く怯えた様子の子供に、何だか毒気を抜かれた我は落ち着かせる様に話した。
『怖がらなくてもいい。食べないし危害も加えないと約束しよう』
「…ほ、本当?」
ゆっくりと頷き子供が話すのを待つ。数分経った頃、やっと我が言ったことを飲み込めたのかこれまでの事を話し始めた。話によると、我等に対して人間が脅迫を始めた頃にこの森で捕まったようだ。何故人間がそんな事をしたのか検討も付かない我に、子供は言った。
「貴族に売るんだって言ってた…見た目が良いから後数年もすれば高く売れるって」
人間が同族すらも、私利私欲に使うと知った我はこの子供に同情した。その時、交渉役の男が声を上げる。
「そ、その娘をお前にやる!それで私の命は助けろ!その娘は後での楽しみに取っておいたが命には変えられん!」
光明が見えたとばかりに捲し立てる男にいい加減腹が立ち、振り向くと先程まで男が居た位置に落雷が落ち、黒い塊が凍りながら煙を上げていた。
『ディベル、ラント殺してしまっては意味がないだろう…』
『フレイ様、すみません。我々も少々気が立っておりまして』
『俺の仲間だけじゃなくて同族まで金の為に売ろうとしたんだぞ!殺して正解だろ?』
この時は二人のお陰で我も気を鎮められた。
「黒い魔獣さん、私はどうなるの?」
『どうするかな、人間の所に返すのは危ないしな…』
『ならば、我等で預かるのはどうでしょうか』
『お、いいじゃねぇか!俺達似た者同士だしな!』
近くで聞いていた他の魔獣達も、元凶の男が無様に殺されて溜飲が下がったのか、人間の子供を見る目は穏やかだった。
『お前、名は?』
「私?ラトって言うの」
『そうか、ラト。我等と共に落ち着くまで暮らすか?』
ラトは少し考えてからゆっくりと頷いた。
これが我とラトが出会った時の話だ。