Said.ラント
私はラント。
今、長い生の中で最も緊張しています。
その理由は、サーシャに人化を見せようと覚悟を決めたからです。
私はこれまで人化をフレイキード様とディベル、ラトの三人にしか見せていません。というか魔獣は基本、人化を仲間以外に見せません。しかし、サーシャは今や仲間見せなければ仲間と認めていなと言っているようで嫌です。最初は、ラトに見せたようにパッパと見せれば良いのでは?と思いました。ですがサーシャに見せようと思うと、見て欲しい反面見られて変な所があったらどうしよう等と考えてしまいます。
フレイキード様に相談しても、ニヤニヤと笑って『まあ、頑張れ』と言われるだけでした。まったく、あのお方は何時も雑です。サーシャに対しても最初はわざと焚き付けたみたいですし。
サーシャと言えばあの子、何故あんなに強いのでしょう?私達二人組に勝つことが出来るだけでなく。フレイキード様に傷を付ける事が出来た。私が覚えている限りフレイキード様は、人に傷を付けられたこと等ない筈。魔獣に付けられた傷も、出会ってから見たのは一度や二度位でした。それをあの歳でやってのけるとは、大した子ですね。
駄目ですね、サーシャの事を考えると何だか顔が熱くなります。何なのでしょうこの気持ちは。
そんな事を考えながら歩いていたら、いつの間にかサーシャが居るであろうお風呂の方に来てしまいました。正直、まだ心の準備が出来ていません。緊張で変な事を言わないか心配です。
そわそわしながら辺りを、ふらふらと歩いていると、ラトが居るであろう方面からディベルが走ってきました。
「ディベル?そんなに急いでどうしました?」
「ラント!お、お前、…流石だぜ何時も冷静だもんな。こんな時でも落ち着いているのは頼もしいな」
突然何か分からない事を言い始めたディベルに、私は思考が追いつきません。一旦落ち着かせてディベルに話を聞きました。すると、ディベルはラトに嘘を吹き込まれていたようでした。
「ディベル。私は、まだサーシャに人化は見せていませんよ?」
「へ?いや、でもラトが見せったって言って……あれ?俺、騙されたか?」
「ハァ……いつか酷い目に会いますよ。もう少し疑いなさい」
「あー、うん。ゴメン」
何時も調子のディベルを見て、何だか緊張が解れた私は提案しました。
「どうせなら二人で一緒に見せに行きますか?」
「え、いいのか?助かるぜ!一人だと何か心細くてさ~」
そんな事を言うディベルを見て本心から言っているのは分かります。ですが私としては、ディベルが居なければ、まだ悩んでいた筈なので助かっています。
本人には言いませんが。