修行4
晩飯の後、やっと体の痺れも取れて風呂に入る。この風呂はフレイがラトの為に作った物なのだが、ラトが使えと言うので俺も使わせて貰っている。
「いきかえる~」
月を眺めながら森を一望できるこの風呂はフレイによって傷の即時回復や病、呪い、麻痺などの状態異常を治す等の効果がある。どうやって作るのか聞いたところ、首をかしげて『何故出来ない?』と聞かれたので諦めた。
「背中流すわよ。サード」
「おお、さんきゅー。ラト~」
風呂の余りの心地よさに、だらけきった姿で掛けられた声に返す。
「ん?ラト?ラト!? え、な、何で居るんだ?」
「私もお風呂に入りに来たの」
突然の事で動揺する俺とは違い、慌てた様子もなく姿勢よく立っているラト。一糸纏わぬ姿なのに堂々としていて美しい。ラトの姿に見惚れていると、ラトの顔がだんだんと赤くなっている事に気付いた。
「ご、ごめん!」
謝ると同時に顔を背け目を瞑る。俺は今、女の姿だが、体に精神が引っ張られる事もなく恋愛対象は女性だ。だから、ラトの体を見るとどうしても邪な考えが浮かんでしまう。こんなの良くないと思い煩悩を振り払っていると、背中に柔らかい物が当たった。
顔を向けるまでもなく分かる。後ろからフワッと香るラトの匂い。今、俺の背中に当たっている物は、間違いなくラトの形の良い程よく育った物だ。
心臓が飛び出る程の勢いで脈打つ。
「ごめんなさい」
緊張の余り固まっている俺にラトがそう言った。何故突然謝るのか分からずラトの顔を見る。
「サードがまだ、私の事を恋愛対象に見れるか試してしまったの」
詰まること無く言い切ったラトだが、その声は怒られるのを恐がる子供の様に感じた。そんなラトを見て俺は、緊張が解れ笑顔を見せながら言った。
「不安にさせてごめん、こんなになっても何故か恋愛対象は女性なんだ」
ほっとしたような顔のラトだが、年頃の女の子が外見上同性とは言え中身は男の俺に身体を見せるのはさぞ勇気のいる事だっただろう、まだ体が震えている。そっと抱きしめて落ち着かせていると。突然空が暗くなり声がした。
『おいサード、我の娘に手を出して死ぬ覚悟が無いとは言わんな?』
あ、死んだ。
久し振りに感じたフレイの殺気と圧に、自分の旅の終わりを悟った。
「まってフレイ、私が望んだ事なの」
『な!?』
まって、まって、ラト。二人とも俺が手を出した様に言うけど何もしてない。ラトに至っては事後みたいに話してるけど何もしてないよ?今の俺に何かをするナニが無いよ?
『サードお前、覚悟は有るんだな?』
俺が困惑している内にフレイとラトで話がついたみたいだ。何も分からない俺に覚悟聞いてきてるし。でも、ラトを守る覚悟はあるからそう答えるか。
「ラトを守る覚悟はあるぞ」
『………』
長い沈黙の後、フレイは頷き風呂を去っていった。気付いた時には上機嫌で歩いていくラトが遠くに見えた。