修行3
勢いよく飛び出した俺は、先ずラントから狙った。雪熊の特徴で厄介な能力がある。周囲の温度を下げ獲物の行動を緩慢にする力、これが有る限り俺はディベルの攻撃を避けられない。
ラントもそれが分かっているのだろう。俺の攻撃を予測して拳を振り抜いてきた。飛んできた拳を間一髪の所で避け、勢いを殺さずラントの足を蹴る。ラントが俺の蹴りを受け、威力を殺しきれずたたらを踏む。その隙を見逃さず更に攻め立てるが、この組み手は一対一では無い。ラントへ全力の拳を振りかぶった所で、ディベルの雷撃が飛んできた。
帯電角鹿の能力を使われる前にラントを戦闘不能に追い込みたかったが、ディベルは充填し終える前に雷を使ってきた。
帯電角鹿は頭部に生えた角に雷を貯め続ける事が出来るのだが、際限は無く魔獣であるため寿命もない。言い伝えでは、千年生きた帯電角鹿が貯めた雷で小国が滅んだと言う。しかし、これは普通の帯電角鹿の場合だ。
ディベルは普通の帯電角鹿とは違い自分の角に段階事に急速に帯電することが出来る。なので、さっきの一撃は本当に急いで貯めきる前に撃った攻撃だ。貯めきられていたら俺は今気絶している。
実際ラントを押し切れればディベルとの一対一に持ち込めるので戦況は楽になる。だが、ディベルとの一対一はそれはそれで死ぬ程辛い。ラントと違いディベルは疲れ知らずなのだ。ラントも体力はかなりあるがディベルはその気になれば三百年戦い続ける事が出来るのだとか。なら何故、俺がラントを狙ったか、それはラントの戦況把握能力の高さにある。ディベルだけなら単なる殴り合いなのだが、そこにラントも加わると奇襲等の絡めてが増え、ディベルの動きも切れを増す。
だからこそ潰すなら頭から。
チームワークの要を叩きたかったのだが、ディベルの横槍のお陰でラントはもう体勢を整えている。これで振り出しに戻ってしまった、いや、今度は一人狙いの猛攻もディベルに向けての牽制も通じない。
『サーシャ!お前腕を上げたな!!』
『流石に驚きましたよ。お見事ですね』
ディベルとラントは口々に褒めながら俺を警戒している。最初の組み手の時は警戒すらされず雑に相手をされ倒されていたが、今は警戒して戦う必要のある相手だと思って貰えたのだろう。その事が嬉しくて口角が少し上がる。
その時、俺の体が突然の温度変化で震え始める。しまった、そう思った時には体の動きが重く、迫るディベルの雷を避けられなかった。まともに電撃を食らった俺は意識を失う。遠くなる意識の中、ディベルの笑い声が耳に届いた。
「つ、次は…負けねぇ…!」
負け惜しみと決意を込めた言葉が痺れる口から出た。
ディベル&ラントVSサーシャ・ラスドア
戦績 255戦 0勝 255敗 0引き分け