修行2
あれから数週間経ち、修行は更に過酷さを増した。最初、森一周だった走り込みは今や五周になった。しかも、追いかける魔獣がフレイに替わった。
走り込みの後のフレイとの組み手も当然難易度アップしている。戦う相手はフレイだけだったが、そこにフレイの従える魔獣が追加された。大きな熊と、常に帯電してる鹿だ。この二人が強くて強くて、何度挑んでも返り討ちに会いフレイにたどり着けずにいる。
当然俺の変化魔法は解禁されていない。
そう言えば一つ修行が増えた、座学だ。なんでも、俺には変化魔法の知識が不足しているらしい。だから、最初の一回目は不完全な形で発動したのだとフレイが言っていた。なので、これから知識の方でもフレイが師匠になってくれるらしい。
それから、衝撃的な事実が判明した。
なんと、ラトは俺よりも強い。
どうして強いのかとラトに質問したのだが、内容を聞いて俺は納得した。ラトが行方不明になり死亡と判定された頃には、もう今の俺よりもきつい修行が始まっていたらしい。
確かに、ラトは昔から何でも上手くやっていたし器用な方なんだろうけどそれでもこの修行をやってのける根性が凄い。そう言えば俺はまだ、ラトが行方不明になった頃の事を聞けていないな。聞こうとするとラトが露骨に嫌な顔をするから話題にするのを避けているのもあるが、いつか聞かせて貰えるのだろうか。
『おいサーシャ、起きろ。組み手の途中だぞ』
組み手中に意識が飛んでいたみたいだ。フレイの声で起こされた。筋肉痛と打ち身で軋む体をゆっくりと持ち上げ、立つ。顔を上げ真っ直ぐ睨むと、意識が飛ぶ前に見た熊と鹿が圧倒的な存在感で立っていた。
『サーシャ、余り無理はしない方が…』
『まて、ラント!!コイツまだ、やれる!!目が死んでねぇ!!』
丁寧な言葉で話すのが雪熊のラント。
オラオラした喋り方するのが帯電角鹿のディベル。
ちなみに両方ともメスだ。
ラントは雪を操るデカイ熊でフェイントや隙の突き方が上手い。ディベルは最初から駆け引き無しの全力勝負で来るのだが驚異的なスタミナとパワーで強引に勝ってくる。それを同時に相手にしなければならないこの組み手は地獄だ。
そして何よりこの二人、連携が上手すぎるのだ。ラントがディベルに合わせて隙を作り、ディベルのストレスを極限まで減らしている。そしてディベルは絶対にラントの作った隙を見逃さない。互いが互いを信頼している証だ。
この二人を越えなければフレイには届かないし、その程度の実力ではラトを守るなんて許して貰えない。
「ディベル、ラント、もう一回よろしくお願いします!!」
『ハァ、仕方ありませんね。やるのならば手加減は出来ませんよ?』
『ラント!お前、顔が笑ってるぜ!!』
掌の傷を無視して拳を握る。この二人を見ていると俺まで楽しくなってくる。今日こそはと燃える心をそのままに走り出す。
「行くぞ!!!」