授魔の日
魔法が好きだ、幼馴染みの言った言葉が未だにこびりついて離れない。
「ラト、授魔の日が来たよ」
ベット横の写真に触れて言った。世界で一番魔法が好きな娘だった。俺の大親友で兄妹みたいな奴だった。
「行ってくるよ」
写真を見ると未だに、感傷的になって涙が溢れてくる。
振り切るように俺は家を出た。
さすがに授魔の日だと活気付くのか、村の集会所に向かってかなりの大人数が移動していた。
「これは…どうするかな」
移動出来ない。いや、人の波に乗って動けばやがて着くのだろうが、予定時刻を大幅に過ぎる事になる。
どうしたものかと悩んでいると子供の鳴き声が耳に入った。
「ママ…どこいったの…」
困った、ガッツリ目が合ってる。不安そうな目で俺を見てる。俺も急いでいるが授魔の儀式は結構な人数が受けるはずだ、多少遅れた所でたいして怒られないだろう。
子供としっかりと目を合わせて手招きをする。
待つと、子供が少し怯えながら歩いてくる。
そのまま人が少ない場所まで連れて行き立ち止まる。
「少し待ってくれ、君のお母さんを探す」
「…あ、ありがとう…」
人混みの中で人探しをしている女性を探した。
全然見つからなかった。
「君のお母さんはどんな服装だ? 」
「え…えっと、黄色の服を着てる」
「そうか、わかった」
なかなか見つから無さそうな手掛かりだ。
悩んでいると女の子はまた泣きそうになり始めた。不安が抑えきれないのだろう。
「泣くのは少し待ってくれ、良いものをあげよう」
「………」
俺に言われて女の子が涙を堪えながらこちらを見た。
ガサゴソと鞄を漁りお目当てのものを取り出す。
「食べれば気分も落ち着くだろ? 」
「これ……高いお菓子でしょ…いいの…? 」
確かに、俺が渡したのは一個二十銀するお菓子なのだが、別に俺がお金を出して買った訳でもなくラトの父と母が何故かちょくちょく買い足して置いてくれるのだ。
「気にしなくていい、嫌いだったら別だが」
「ありがとう、お兄ちゃん !」
満面の笑みでお菓子を食べる女の子を横目に母親探しを続ける。すると、遠くで必死の形相で周囲を見回す女性が目に入った。
「あれ、君のお母さんだろ? 」
「ママ? …ママだ !!」
人混みに飛び出していきそうな女の子をお菓子で制御しながら母親の元へ連れていく。
「リリア !」
「ママ~ !」
我が子の無事を確認し終えると、俺の方を向き頭を下げた。
「本当にありがとうございます…!」
「お兄ちゃんありがと~」
ニコニコ笑うリリアちゃんに俺はお菓子をあげた。
「ママ見て、お兄ちゃんがお菓子くれた~」
微笑みながらリリアちゃんに顔を向けた母親がお菓子を見て固まった。
「こんな、高価なものまで貰ってしまって申し訳ないのですが、御返し出来るものがなくて…」
「気にしなくていいですよ、それじゃ俺はこれで」
何か言おうとしている母親から逃げるように人混みに潜った。
授魔の儀式にはしっかりと参加した。社長出勤で。