42話
ルドルと、リーアを操るウンディーネの2人は、勇者の剣のある部屋を出て広場へと戻った。
「!」
しかし、そこに広がっていたのは見慣れた風景ではなかった。
広場は鬱蒼とした木々に囲まれているはずだったが、それらは全て消え去っていた。木々がなくなった先に広がるのは、どこまで続いているか分からない、ひたすらに真っ白な空間だった。
「どういうことだ……?」
困惑するルドルに対し、ウンディーネは事態がよくわかっていない様子だ。どうするべきか悩むルドルの顔を、ウンディーネがひょいっと覗き込む。
リーアの身体を操るウンディーネによるそんな仕草に、ルドルはまるでいつものリーアが戻って来たような気がした。思わずウンディーネをジッと見つめ返すルドル。彼が我に返ったのは、顔の前で、どうしたのとでも言うかのように手を振るウンディーネに気がついた時だった。
「あ、ごめん。どうした?」
ウンディーネは身振り手振りで何かを伝えようとしているが、それはまるで謎の踊りのようで、全く意図が分からない。
「ごめん。ちょっと意味が分からないんだけど……」
すると、ウンディーネは頬を膨らませ、不満気な表情を浮かべながら、ルドルの服をグイグイ引っ張った。そして、ルドルを引っ張りながら、真っ白な空間の方へと歩き出す。
「えっ。ど、どうしたんだ? 着いて行くから引っ張るのをやめてくれ」
突然の出来事に戸惑いながら、ウンディーネに引っ張られ歩くルドル。
ルドルの一言に、ウンディーネは服を引っ張るのをやめたものの、ルドルを見つめた後、やはり真っ白な空間の方へ歩き出した。
「……一体どこまで歩くんだ?」
しばらく歩いた所で、ルドルはウンディーネに尋ねる。しかし、ウンディーネはその問いかけに反応することなく歩き続けている。
やれやれと後ろを振り向いたルドルは、その視界に飛び込んできた光景に驚いた。
「えっ!?」
ルドルの目に飛び込んできたのは、真っ白な空間に佇む1本の大樹だった。先ほどルドルとウンディーネがその足元にある部屋から出てきた大樹だ。真っすぐに歩いて来たのだから、それがルドル達の背後にあること自体に違和感はない。ルドルが驚いたのは、その大きさだった。
「かなり歩いたのに大きさが変わっていない……?」
ウンディーネについていく形で、大樹に背を向けてそれなりの距離を歩いたルドル達は、大樹から離れたはずだった。しかし、その大きさはせいぜい大岩を抜けて目にした時のそれと変わらない大きさで、まるでこれまでずっと同じ場所で足踏みでもしていたかのような、そんな大きさだった。
周囲に広がるひたすらに真っ白な空間も相まって、ルドルは自らの距離感と空間の認識がおかしくなったような感覚を覚える。
すると再びウンディーネがルドルの服を引っ張った。今回は、グイッと引っ張り続けるのではなく、何かを訴えるような、クイッという短い引っ張り方だ。
「どうした?」
視線をやったルドルに対し、ウンディーネは黙って進行方向を指差した。それを、歩き続けろという風に理解したルドルは、戸惑いながらも、進行方向に向けて1歩を踏み出す。
「ぬんだっ!」
直後、ルドルの顔に衝撃が訪れた。
「痛ってえ……」
ルドルが歩き出した方向、ウンディーネが指さしたすぐ先に、見えない壁のようなものがあり、ルドルはそれに顔をしたたかに打ちつけたのだった。
完全に油断していたルドルは、ぶつけたおでこに手をやりながら、思わずその場にしゃがみ込んだ。