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40話

 ルドルの中に入って来る、自分の物ではない、様々な想いや記憶。それは仲間達と共に旅をして育まれたものだった。仲間達と笑い合い、時には苦難も共にしながら過ごす日々。その最終地点は、倒すべき宿敵との決戦だった。そしてその決戦に、彼は--いや、()()()()勝利した。


 ルドルの中に流れ込む想いや記憶。それはかつて魔王を打ち倒した勇者のものだ。そしてそれは、ルドル自身のものでもある。


 この時、ルドルは自分が勇者の生まれ変わりだと言うことを感じとった。


 どれくらいの時間が経っただろうか。物凄く長かったような気もするし、一瞬だったような気もする。そんな不思議な感覚に襲われながら、ルドルが目を開けると、台座の置かれた部屋へと戻ってきていた。その薄暗い空間の様子は、幼い頃見た時とも先ほどまでとも全く変わらない。


 ただし、目の前の台座には、これまでと違う点が1つだけあった。その上に浮かんでいたはずの勇者の剣が、無くなっていたのだ。そしてそれは、今ルドルの手の中にあった。


 柄を掴むルドルの右手には、ずっしりとした重みがある。ルドルが切っ先に気をつけながら左手を刀身に沿わすと、それは確かな感触を伝えて、ハッキリとその存在を示した。


 ルドルは腰に付けていた鞘へとそれを仕舞う。その鞘はルドルがマーラとの戦いで失った剣のためのものだ。しかし、ルドルが勇者の剣をあてがうと、それはまるで最初からそのためのものであったかのように、刀身に合ったしっかりとした造りの鞘へと変化した。


 「魔王を倒し、平和になったはずなのに何故……。それにマーラの存在……。仮にも勇者と呼ばれている者が、あんなことをするなんて」


 勇者の記憶を取り戻したことで、改めて現状の酷さを憂うルドルだったが、すぐにその思考は、喫緊の課題へと移った。


 「とりあえずリーアを連れて聖女の国に向かわないと」


 ルドルはリーアに歩み寄り、その身体に右手を向けた。


 「バインド」


 ルドルがそう唱えると、リーアの黒いモヤがかかった胸元が少しだけ青白く光り、その光が消え行く頃には、黒いモヤは表面上は見えなくなっていた。


 「まだ力は完全には戻ってないのか...」


 そう言って自らの右手をジッと見つめるルドル。


 ルドルが取り戻したのは、勇者の想いや記憶だけというわけではなかった。先ほどまではオルドに言われて初めて気がついたリーアの胸元から発せられる禍々しい呪いも、今は感じ取ることが出来る。


 これまで何度か発動させてきたバインドの使い方も、敵の動きを止めるだけではないと、感覚で理解していた。そのためルドルは呪いの進行を止めようと、リーアの傷口に魔法を唱えたのだった。そしてそれは、確かに作用し、呪いをいくらか抑え込んだ。けれど、完全に進行を止めるまでには至らなかったのだった。


 その原因も、ルドルは理解していた。ルドルは、勇者だった頃の自身が魔力とは別に神聖力を使っていたことと、転生前は神聖力の代償で魔力がなかったということも思い出していた。その神聖力が完全に戻っていないため、呪いの進行を完全に止めることが出来ないのだった。


 「ごめんよリーア、今の俺にはまだこれ以上のことはできない……」


 ルドルはリーアの目の前に跪いて、彼女に語りかけた。


 するとその呼びかけに呼応したかのように、突然リーアの首元から、リーアの頭の形をした水の塊が生えてきた。


 「うわっ!」


 驚いたルドルは思いっきり尻もちをつき、お尻を固い床にしたたかに打ちつけた。


 「痛たたた。な、なんだ、ウンディーネか……。驚かせるなよな。どうかしたか?」


 リーアから生えてきたのは、リーアの身体の中で呪いの進行を食い止めていたウンディーネだった。自身に優しく問いかけてきたルドルに対し、ウンディーネはじっとその顔を見つめ返す。直後、ウンディーネの口元がフニャフニャと動いた。その様子は何かを言っているように見えるが、生憎ルドルにはウンディーネが何を言っているのか理解出来なかった。


 困惑するルドルに、ウンディーネは口元を動かすのをパタリと止める。やがてウンディーネは、ふいっと顔を背けると、リーアの中へと戻っていった。その様子は、どこか不満げにも見えた。


 「……なんだったんだ?」


 訳が分からないルドルだったが、いつまでも考えている時間はない。ルドルは出発のためにリーアを抱えようと彼女に近づく。


 その時、リーアが目を開けた。

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