35話
ルドルの一撃によって、辺りには周囲の草木を揺らすほどの凄まじい衝撃波が広がった。
「!?」
しかし、その渾身の一撃はマーラを切り裂くことはなかった。ルドルの剣は、マーラの顔に付けられたお面によって止まっている。直後、ルドルは違和感を感じて、慌てて後方に大きく飛び、間合いを取った。
次の瞬間、マーラを拘束していた青い光の柱は粉々になった。
「あーあ、やっちゃった。私知らないからね」
拘束を解かれたマーラのお面が真っ二つに割れ、ハラリと地面に落ちる。
そうして現れたマーラの素顔は、凛とした顔立ちだった。次の瞬間、両目を瞑ったマーラから、禍々しい殺気が溢れ出す。
「魔族を皆殺しにしないように殺気を抑えてたのに」
ルドルはその殺気の凄まじさに、全身を刺されるような感覚を覚えた。
「ほんと、魔族って自分勝手な生き物で腹が立つ!!!」
マーラは自暴自棄になったかのように、持っていた短剣を大振りに振った。
次の瞬間、ルドルのすぐ傍らを斬撃の塊が飛んでいく。かろうじてルドルに当たらなかったその斬撃は、後方の木々を紙切れのように簡単に破壊していった。その斬撃の速さに、ルドルは反応する事ができなかった。
「殺してやる!殺してやる!!!」
直後、マーラは叫びながら勢いよく間合いを詰めてきた。
先刻から自分の攻撃を軽々と受け止められ続けていた相手からの攻勢。ルドルは危険を感じるも、逃げる事はできず、何とかそれを受け流していく。
たった1回のミスが命取りになる。ルドルは剣から伝わってくるその実感に震えそうになるのを堪えながら、マーラの連撃を必死に捌き続けた。
どれほどの数の連撃を凌いだ頃か。ルドルが持っていた剣は、徐々にその刀身をすり減らしつつあった。少しづつ削られ、ヒビの入っていく己の剣を見ながら、ルドルはこの防戦も長くは持たないことを悟った。
「(このままだとまずい……!)」
「死ね! 死ね!! 死ね!!! クソ雑魚魔王が!!! お前を殺して、魔族を皆殺しにしてやる!!!」
次の瞬間、マーラの強烈な一撃を受けたルドルの剣が、ついに割れて崩れた。
「くそっ!」
咄嗟に右手を前に出し、ルドルは叫ぶ。
「バインド!」
マーラの周囲に再び青白い光の柱が現れ、彼女を包み込む。
「そんな拘束魔法、今の私に効かねえよ!!!」
しかし、今回それが彼女の動きを止めることはなかった。マーラの叫び声と同時に、青い光の柱が、高い音を立てて割れた。
「死ね!!!」
トドメを刺そうとするマーラの一撃が、ルドルに襲い掛かった。