34話
女は手に持ってた短剣で、ルドルの一撃を易々と受け止めた。
「ふざけるな! リーアに何をした! お前は何者だ! 何の為にこんなことをするんだ!!」
「熱烈なアプローチは嬉しいけどあまりにも軽いわね」
女はそう言うと、短剣を持つ腕を振り、軽々とルドルを吹き飛ばす。
「な!?」
その予想外の威力に驚きながら、ルドルは空中で一回転して体勢を立て直し、着地した。つい先ほどまで女に肉薄していたはずのルドルだったが、吹き飛ばされて、今は再び女と距離が開いていた。
「可愛い坊やからのせっかくのアプローチですもの。特別に教えてあげるわ」
そう言って女はゆっくり歩きながら、徐々にルドルと間合いを詰めてくる。
「私の名はマーラ。魔王を討伐する為に来たの」
「魔王……? 魔王は遥か昔に勇者に討たれただろう! 俺は魔王なんかじゃない!」
マーラの予想外の発言に、困惑と憤慨の入り混じった表情でルドルはそう返した。
「命惜しさか知らないけれど。魔王が『俺は魔王じゃない』なんて。面白くない冗談ね。あまりふざけた事を言わないでくれる?」
「ふざけてるのはどっちだ! お前だけは絶対に許さない!!」
ルドルはすぐそばまで歩み寄ってきたとマーラに、剣で素早い連撃を繰り出した。
「貴方達が私の分身体を壊してくれたせいで、色々大変だったのよ。だから今回は失敗しないように、私が直々に来てあげたの。また壊されたらたまったもんじゃないもの」
マーラは繰り出されるルドルの連撃を軽々と受け止めている。
「次から次へとふざけた事ばかり言いやがって!」
「あの時にあなたが死んでいれば、今日その娘が死ぬことは無かったのにね」
「リーアは死んでない! 俺が絶対に助ける!!」
ルドルは剣に力を込めて振りおろしたが、マーラに簡単に弾かれた。
「(くそ、攻撃が当たらない……!)」
ルドルは悔しそうに剣を握りしめた。リーアのためにも、戦いに時間をかけてはいられない。
「あら? もう終わり? あの時貴方達を守った大型の魔族はそれなりに強かったけれど、貴方は随分と弱いのね」
攻めの手が止まったルドルを見て、マーラは呆れたようにそう言った。
「勝てないと分かったのなら、潔く自害してくれないかしら? 私としては、とりあえず魔王討伐さえ果たせればいいの。自分より遥かに弱いものを殺すのは、正直人として気が引けるのよ」
「リーアにあんなことしておいて!!」
ルドルは再度マーラに向けて斬りかかった。
「あれは事故じゃない? 私はあの娘を殺すつもりは無かったのに、自分から当たるような位置に立つんだから。それに、貴方のことは殺すつもりだったけど、あまりにも弱すぎて、今はこの手で殺すのが可哀想に思ってというのも本当よ」
マーラは相変わらず軽々とルドルの連撃を受け止め続けている。このままでは埒が明かない。そう感じたルドルは、奥の手を繰り出すことを決めた。
「リーアを救う為に、お前を討つ!!」
ルドルの持つ剣が、うっすらと青白く光る。直後、斬りかかる直前に、右手をマーラの方に向けたルドルは叫んだ。
「バインド!!」
ルドルが叫んだ直後、天まで伸びる青白い光の柱が現れてマーラを飲み込み、拘束した。
「!」
光の柱の中で、マーラの身体はルドルの剣の一撃を受け止めようと腕を前に振りかけた所で固まっていた。
「……くっ!」
ルドルのバインドは、かつてマーラの分身体に向けて放たれている。そのため、魔法自体は想定済みだったようで、拘束された直後もマーラの表情にはまだ余裕があった。しかし、すぐにマーラの表情には焦りが浮かび始めた。その拘束力は、かつてと比較にならないほど強くなっていたからだ。
「はああああ!!」
青い光の柱の中で固まるマーラに向けて、ルドルは渾身の一撃を放った。