30話
「まずは見ていなさい」
少し距離を取ったオルドはそう言うと魔力を高めだした。相当な魔力が高まっているのを感じ、ルドルとリーアは息をのんだ。
やがてオルドが両手を前に出すと、手をかざした先が光りだした。その眩しい光に、ルドルとリーアは思わず目を細めた。
眩い光が消えると、オルドが手をかざした先に、手乗りサイズの小さな白いドラゴンが現れていた。オルドが突き出していた両手を器のようにしてやると、小さなドラゴンはその上にちょこんと乗った。
「どうじゃ? 手乗りサイズのドラゴンじゃ。すごいじゃろ?」
「う、うん」
ルドルとリーアは、オルドの両手の上で可愛く首をかしげる小さなドラゴンを、何とも言えない表情で見つめている。てっきりオルドはもっと凄いものを召喚すると思っていた2人は、思わず顔を見合わせた。
戸惑う2人の心中を察した父は、苦笑しながら言う。
「小さいドラゴンでも、召喚出来るのはすごいことなんだぞ」
「ほっほっほ。巨大なドラゴンの召喚なぞ、この場で簡単に行うのは流石に無理じゃよ。まぁ、ワシに追いつけるくらい鍛錬を積めば、いずれリーアちゃんなら召喚出来るかもしれんがね」
「! 私頑張る! そして、大きいドラゴンを召喚して背中に乗る!!」
リーアの無邪気な師匠を超えて見せるという宣言に、今度は父とオルドが顔を見合わせる番だった。
「その意気や良し。それでは、リーアちゃんもワシがやって見せたように、召喚魔法を使ってみるのじゃ」
「はい!」
元気よく返事をしたリーアはルドル達から少し離れた位置に移動した。そして、短くフッと息を吐き、目を閉じると、魔力を練り始めた。
徐々に高まりゆくその魔力は、オルドに負けないぐらい力強い。リーアの魔力に反応した白いドラゴンは、オルドの手の中でピャーと鳴いた。
十分な魔力が練られた後、リーアは目を瞑ったまま、オルドがしてみせたのと同じように、ゆっくりと両手を前に出す。直後、リーアが両手をかざした先に水の玉が出現した。最初は手のひらに収まるくらいのサイスだったそれは、だんだんと大きくなっていく。
父とオルドはその魔力量に驚き、目を見開いた。
やがて大人と同じぐらいの大きさにまで膨れ上がった水の玉は、ある時点を境に今度は凝縮し始めた。程なくして手のひらサイズになったその水の玉は、リーアの突き出した両手のひらの先にピッタリ張り付いている。
そして、その水の玉は少しづつ形を変化させていった。
「な、なんということじゃ……」
水の玉が形を変えたその姿に、オルドは驚愕した。
それは、リーアの姿だった。ピッタリ重ねられた両手を境に、鏡写しのように向かい合って立つ2人。
「リーアがもう1人いる!」
ルドルの驚いた声に目を開けたリーアは、目の前に立つ自分を模した姿の水に驚いた。
「人の形を模したウンディーネを召喚してみせるとは...…。その年で召喚出来るだけでも大したものじゃが、よもやここまでとは」
「俺が爺さんにリーアちゃんの才能を強く推したのも分かるだろう? 爺さんは買いかぶり過ぎじゃないかと思ってたかもしれないが……これでようやく信じてくれるかい?」
「……むう。流石に信じざるを得まい」
オルドと父の視線の先で、リーアは双子のように姿形がそっくりなウンディーネと、両手をつないで楽しそうに跳ね回っていた。




