28話
やがてリーアは満足気な表情を浮かべ、魔法ショーは終わった。
ルドルとオルドは立ち上がって拍手し、目の前の小さな魔法使いに惜しみない賛辞を送る。夢中になって魔法を操っていたリーアは我に帰ったようにポカンとした顔で拍手を受け取ると、恥ずかしそうにハニカミながらペタリと座った。
「とても素晴らしいショーじゃった」
オルドは未だ手を叩きながら、笑顔で言った。
「2人の魔法の現状については、よく分かった。それを踏まえた上で、今日の稽古の内容を伝えよう」
真剣な顔をして自分の方に向き直るルドルとリーアを見つめながら、オルドは続けた。
「まずルドル君は以前魔法を使えた時のことを鮮明に思い出すこと。その時の風景、自分の感覚、感情。全てを可能な限り克明に思い出してみるんじゃ」
「はい!」
元気の良い返事と共に、深く頷くルドル。
「リーアちゃんは水魔法が得意なようじゃから、それを使おうかの。このくらいの水の塊を作りだし、それをこういう剣の形に変えてみなさい」
そう言ってオルドは右手の上に大ぶりの球体をした水の塊を出した。次の瞬間、水の塊は、鋭い切先としっかりした持ち手を備えた剣へと変わった。
リーアは、先ほど自分が失敗したことを容易くやってのけたオルドに驚いた。そして、気合いを入れ直した表情で深く頷いた。
こうして2人はオルドに課された課題に取り組み始めた。
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すっかり陽も暮れ始めた頃になっても、2人の進捗は芳しくなかった。
ルドルはうんうん唸りながらリーアを助けた時のことを可能な限り鮮明に思い出した。そして、右手を前に出してバインド!と叫ぶが、魔法が発動することはない。
リーアの方も、生み出した水を、剣を模しているのだろうなと分かるような形には出来るものの、それはオルドのような一目でそれと分かる出来にはなかった。おまけに複雑な形に維持するのは難しいようで、しばしば水は地面へと落下してグシャグシャに飛び散った。
「よし! 今日の稽古はここまでじゃ」
パンと手を叩いて、オルドは2人に稽古の終わりを告げた。
「2人とも初日から頑張ったの。今日はゆっくり休むといい」
「「ありがとうございました」」
オルドに礼を告げながらも、ルドルとリーアの顔に、稽古から解放された喜びはない。それどころか、2人とも、上手くいかないことに悩む渋い表情を浮かべていた。
「ほっほっほ。まだ初日なんじゃから、そんな思い詰めたような顔をするもんじゃないぞ」
「・・・・・・」
オルドの励ましにも、2人の表情が明るくなることはなかった。
広場でオルドと別れ、家路につく時になっても、2人の顔つきは暗かった。稽古にまっすぐ向き合う2人のそんな姿を見て、父は微笑むと、この日は家までのランニングは課さず、歩いて帰ることにしたのだった。