25話
実戦形式での稽古は数時間続いた。しかし、結局ルドルとリーアはただの一度も父に勝つことは出来なかった。
「稽古でだいぶ身体は出来てきたが、やはり実戦形式となるとまだまだだな」
そう言って笑う父。
「だって、お父さん強いんだもん! 勝てっこないよ!!」
「はっはっは!!」
少し不貞腐れた様子のルドルに、父はますます笑顔になった。
「あと少しで攻撃を当てられそうなときもあったし、次は勝てるよ!!」
一方のリーアは、ルドルとは対照的に、疲労の中にあっても前向きな様子で目を輝かせている。
「そうだな。2人の息もばっちり合っていて、初めてにしてはとてもよかったぞ! もう少し慣れてきたら俺も片腕だけだとしんどいかもな!!」
そう言って父は、座り込むルドルとリーアの頭を、その大きな手でわしゃわしゃと撫でた。
「よし! 今日の稽古はここまで! さぁ、家までランニングで帰るぞ!!」
「「え~~~」」
すっかり恒例となった帰宅時のランニングが、実戦形式での稽古で疲れ果てた日にも免除されないと知ったルドルとリーアは悲痛な叫び声をあげる。けれど、そんな2人の抗議も空しく、結局この日も3人は家まで走って帰った。
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翌日。いつものようにルドルとリーアと父は広場で稽古に励んでいた。ただし、この日は普段とは違って、そこに来客があった。
「あ!」
最初に来客に気がついたのはルドルだった。向こうから近づいて来る見知った顔に、嬉しそうに声を上げる。
ルドルの声で父もまた来客の存在に気がつき、稽古の手を休めた。
「お~オルド爺さん! ようやく来てくれたか」
「ようやくとはなんじゃ! 年寄りをこんな遠くまで呼びつけておいて!」
まぁまぁと父が宥める相手は、以前ルドルと父が市場の組合本部で出会ったオルドだった。
「こんにちは!」
「久しぶりじゃの、ルドル君」
ニコニコと挨拶を交わすルドルとオルド。その傍らで、この人は一体誰だろうという顔のリーアに、父は声を掛ける。
「随分待たせてしまったな。リーアちゃん、この人が俺が呼んでいた魔法の先生だ」
「!?」
「初めまして、お嬢ちゃん。君がルドル君に助けてもらったというお姫様かい?」
驚くリーアに、冗談交じりに優しく挨拶するオルド。
「魔法については超一流だから、一杯教えてもらうんだぞ」
「うん!」
待ち望んでいた魔法の先生の登場に喜ぶリーアは、父に元気に返事を返すと、オルドの方に向き直って、丁寧に頭を下げる。
「よろしくお願いします!!」
「ほっほっほ。礼儀正しい子じゃな。こちらこそよろしく」
「じゃあ、あとはもう爺さんに任せるから、2人のことよろしく頼みます」
「任せなさい。じゃあ早速2人に魔法について教えようかね」
父から2人を任されたオルドは、場所を変えようかの、と言って広場の隅にある木陰の方を示す。
こうしてオルドによる魔法の授業が始まった。