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24話

 最初に父に飛び掛かったのはリーアの方だった。


 「やあああ!」


 叫びながら正面から父へ向かっていき、手にした木剣を縦に振り下ろす。


 そんな一撃に対して、父は手にした棒でリーアの木剣の側面を捉えると、軽く薙いでみせる。重さを感じさせないその一撃は、その見た目に反して威力があり、飛び掛かって来たリーアごとその軌道を横にズラして吹き飛ばした。


 しかしリーアはそれも織り込み済みのようだった。弾かれ、父から見て右側に着地したリーアは、間髪入れずに右手の木剣を大きく振り、すぐ目の前にある父の足を狙った。


 「ここだ!!」


 勢いよく叫びながら、リーアは剣を振るう。どうやら最初から本命はこちらだったらしい。


 しかし、至近距離で放たれたその一撃も、父を捉えるには至らなかった。易々と木剣を棒で払い落とした父は、おまけとでも言わんばかりに、リーアの額をコツンと棒で軽く小突いた。


 「あ痛っ」


 木剣を落としたうえにバランスを崩したリーアは、そのままペタリと尻もちをつく。


 「足を狙えばいけると思ったのにー!」

 「甘い甘い」


 悔しそうにするリーアに対し、父は余裕たっぷりだ。


 「ルドルは見てるだけか?」

 「!」


 父から繰り出された挑発に反応するルドル。


 「うおおお!!」


 勢いよく走り出したルドルは、リーアとは反対、父から見て左の方へと回り込んだ。そして手にした木剣を力任せに横に振るう。


 「ははは」

 「痛って!」


 父は笑いながら、先ほどと同様に木剣を棒で叩き落すと、リーアにしたのと同じく、ルドルの額を棒で軽く突いた。ルドルもまた、その一撃で剣を落とし、無様に地面に尻もちをついた。


 「リーアちゃんは戦術を考えて飛びかかってきたのは良いが、そもそも力が入っていなくて威力がない。足を狙うのは筋が良いが、斬撃には片腕だけの力じゃなく全身を使って力を込めるんだ。ルドルは、そんな真っすぐな一撃では相手に簡単に対処されてしまうぞ。安易に踏み込むんじゃなく、もっと相手と駆け引きをしろ」


 座り込む2人に短くアドバイスをした父は、フンと鼻を鳴らして続ける。


 「さあ、いつまで座ってるんだ? かかっておいで」


 その得意げな表情を見つめながら、ルドルとリーアは無言で立ちあがる。そして互いに目で合図をすると、一斉に父に飛び掛かった。


 高く飛んだルドルは、上方から父を狙い、木剣を振り下ろす。対するリーアは、先ほど同様、父の足をめがけて、低い位置から両腕で力を込めた一撃を放った。


 しかし、そんな同時に飛んできた異なる位置への攻撃も、父を焦らせるには至らない。


 父は余裕の笑みを浮かべながら、右腕を伸ばし、手にした棒でルドルの一撃を素早く払った。そしてその勢いのまま、棒を手の中で滑らせ、棒の先端を掴む。そして今度は棒を振り下ろして地面にグサリと突き刺す。その位置は、ちょうどリーアが振るう木剣の軌道上にあった。


 「!」


 振り切って父に当てるつもりだったリーアの一撃は、父が地面に突き刺した棒によって、あと一歩という所で弾かれる。反動で、リーアは危うく体勢を崩しかけた。


 一方のルドルも。空中で軌道をズラされて着地の目算を誤っていた。ズラされたその軌道の先には、リーアが居る。


 「「うわああああ!」」


 そのままルドルは、リーアを押し倒す形で着地した。


 倒れ際に、辛うじてリーアに全体重をかけることを避けたルドル。その両手は地面に倒れ伏すリーアの頭の左右に突かれ、両膝はちょうどリーアの腰の真横に接地していた。


 どうやらギリギリ直撃は免れたらしい。そう思い安堵したルドルの視界に入って来たのは、すぐ目の前にあるリーアの小さな顔だった。


 「(リーアの目ってこんなに綺麗だったっけ……?)」


 眼前の小さな水色の瞳に思わず見惚れるルドル。一方で、リーアは至近距離で真っすぐ放たれるルドルの視線に、恥ずかしそうに視線を逸らす。


 「ル、ルドル...…」

 「あ……。ご、ごめん!」


 慌てて立ち上がったルドルは、リーアに手を差し伸べる。その手をリーアがおずおずと掴むと、ルドルは手を引いてリーアを立たせた。


 「……」

 「……」


 2人の間に流れる何とも言えない空気を察した父は、ニヤニヤと笑っている。


 「ルドルも男の子だな!」


 そう言ってはっはっはっと笑う父。


 「な、なんだよそれ!」


 父の言葉に慌てふためくルドルを見て、リーアもまたプッと噴き出す。


 「リーアもなんだよ!」


 広場は動揺するルドルの大声と、父とリーアの笑い声で包まれた。

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