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21話

 「まず初めに……二人には怖い思いをさせてしまって申し訳ない!」


 ルドルの家のリビングで、テーブルを挟んでルドルとリーアの反対側に座る父は、開口一番にそう言って頭を下げた。


 「暗くなる前にもう少し早く2人の様子を見に行くべきだった……。あるいは最初から俺が一緒に付いて行っていればこんなことには……」

 「父さんは何も悪くないよ!」

 「そうだよ!」


 申し訳なさそうに自分を責める父を、必死にフォローするルドルとリーア。そんな2人姿を見て、本当にすまないとうな垂れながら呟いた父は、ここ数日の自らの外出について語り始めた。


 「随分家を空けてしまったが、その間に俺は村の連中への情報共有は勿論のこと、市場の方にもオルドを通じて連絡を入れておいた。俺達の村だけが標的にされるとは限らないからな」


 今頃は市場から近隣の村にも注意喚起がされているだろう、と話す父は、続けて悔しそうに語った。


 「その一方で、2人を襲った女のことは、まだ何も分かっていない。何か手がかりがないかと村の連中総出で現場を探したが、成果はなし。あいつの仲間が現れるかもしれないと村の見回りも強化しているが、今のところはそんな気配もない。近隣の村からも、不審な人物の報告はゼロだ。何故2人を狙ったのかも分からん」


 襲撃者の正体も目的も不明。そんな父の説明に、リーアはキュッとテーブルの下のルドルの手を握りしめて、不安げな様子だった。


 「だから、しばらくの間は、外出の際には俺が2人に付いて一緒に行動するようにする」


 なおも不安そうなリーアを見ながら、父は説明を続ける。


 「そして2人には、最低限身を守る術を身に着けてもらうため、これから稽古を受けてもらう」

 「稽古?」


 ルドルの言葉に、そうだと頷いた父は、リーアの方を見て笑顔で言う。


 「リーアちゃんの稽古には特別に魔法の先生を呼んでいるから楽しみにしておくんだな」


 父の言葉を聞いて、魔法を学べると知ったリーアは嬉しくなったのか、その顔には少し明るさが戻った。そんなリーアの様子を眺めながら、父は続ける。


 「それにな、実はあの女を倒したのはリーアちゃんが召喚したウンディーネなんだ」

 「えっ!? でも私、召喚魔法なんて試したこともない……」


 リーアは父の言葉に驚き、自信無さげにそう言った。


 「リーアちゃんが俺を助けようとして放った魔法があるだろ? あれがあの女に躱されて川に着弾した後、そこに込められた魔力でウンディーネを呼び出したんだ。しかし召喚魔法を試したことすらなかったとは……もしかしたらあの時、リーアちゃんの気持ちに精霊が応えてくれたのかもな」

 「すごいや。リーアが僕たちを救ってくれたんだね」


 ルドルは驚き、そしてリーアに向けてありがとうと微笑んだ。リーアはすっかり真っ赤になって照れている。


 「普通は精霊の召喚なんて簡単にはできないものだ。リーアちゃんには才能があるぞ!」


 父の言葉に、嬉しそうに笑うリーア。リビングが和やかな雰囲気に包まれた所で、ルドルは疑問に思っていたことを口にした。


 「そう言えば、あの時のお父さんの姿はなんだったの? いつもより身体が大きくて声も低くなってたけど……」

 「あぁあれか。あまりあの姿は見せたくはなかったんだがな……。まぁ今後のことも考えて、教えておくか」


 ルドルの質問に、父は恥ずかしげに頭を掻くと、続ける。


 「あれは魔族が使う身体強化の一つだな」

 「身体強化?」

 「あぁそうだ。精霊の召喚なんかとは違って、魔族では一般的な技だな。だからルドルとリーアも稽古で鍛えれば、俺のように強くてムキムキになれるぞ」


 そう言って、力こぶを出してポーズを決める父に、思わず吹き出すルドル。


 「ムキムキは嫌だよ~」


 そう言ってリーアも可笑しそうに笑っている。


 「これまでは狩りなんかで使ったとしてもごく短時間だけだったが、あの時は100%で使ったから、数日間は反動で身体中が悲鳴を上げてたよ」


 それを聞いたルドルとリーアは、体を張って自分達を守ってくれた父に、申し訳なさそうな顔になる。そんな様子を見て、父は慌てて付け加えた。


 「2人が気にすることはないんだ! 今はこうやってすっかり元気になってるんだからな! それよりも、身体強化は2人にもそのうち教えるから、今のうちからムキムキになる自分を想像して楽しみにしとけ~」


 おどけて話す父の姿に、ルドルとリーアの顔には再び笑顔が戻った。


 「よし! これで2人に話さなきゃいけないことは全部話したし、早速今日から稽古を始めるか!」

 「「うん!」」


 そう言って勢いよく席を立った父に、ルドルとリーアも元気に続いた。


 そのまま外に出る3人。父は、重りの付いた木剣をルドルに手渡した後、リーアにも別の同じ物を差し出す。


 「あれ? 私も剣の稽古をするの? 魔法の先生は?」


 首をかしげるリーアに、父は笑顔で言った。


 「あぁ、呼んでおいた魔法の先生が来るまで暫くかかるからな。それに基礎体力は魔法を操る者にも必要だ。だからリーアちゃんにも、ルドルと一緒に俺の訓練に付き合ってもらうぞ」


 そう言って父から差し出された木剣を、リーアは受け取る。それはリーアの細腕にはズシリとした重みがあり、リーアは思わずそれを落としそうになった。そんな様子を見た父は思い出したように、あぁそれからと続けて言った。


 「魔法の稽古が始まるまでは、魔法を使うのは禁止だからな!」


 笑顔で放たれた父の言葉にリーアは絶望した表情になった。そしてその細い両腕から、今度こそ本当に、木剣が滑り落ち、ポトリと地面に落ちたのだった。

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