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19話

 父の斧に弾かれた短剣が、宙を舞った。大きな跳躍の後、女はそれを空中で容易くキャッチすると、勢いそのままに父の方へとその刃を向け襲い掛かる。


 父は女のその一撃を、再び斧で受け止める。直後、ドーンという轟音と共に、父の周囲の地面はえぐれて凹んだ。


 「(こんな華奢な身体で、この重み!?)」


 父は舐めるなと言わんばかりに斧を振って女を振り飛ばした。


 「おらあああ!」


 そして宙に浮いた女が着地する瞬間を狙い、手に持っていた斧を勢いよく放った。


 真っ赤に燃えながら飛んでいくその斧の火は勢いを増し、父と同じくらい大きな業火の塊となって、女の方へと飛んでいく。


 女は空中で、右手に持っていた短剣を斧に向けて放った。しかし、先ほどとは違い、投げた短剣は弾かれてあらぬ方向の地面に突き刺さる。


 身を守るものを失った着地寸前の女の元へ、燃え盛る斧が迫る。直後、女は躊躇いもなく、前に出した右腕で燃え盛る斧を受けた。


 そうして僅かに斧の軌道を逸らしたことで、直撃は避けたものの、その代償は大きかった。


 燃え盛る斧を受け止めた女の右腕は、根本から裂かれ、ボトリと地面へと落下した。


 「(何の躊躇いもなくだと……!?)」


 女が躊躇せずに燃え盛る斧を右腕で受け止めたのも父には驚きだった。しかし、更に驚いたのはボトリと落ちた腕のその後だ。落ちた女の右腕は、父の眼前で、そのまま黒い粉になって消えていった。


 「(黒い粉……あの腕は一体どうなった!?)」


 驚く父に対し、腕を落とされた張本人であるはずの女は、まるで痛みを感じる素振りもない。それどころか、再び父の方へと真っすぐ向かってきた。


 飛び掛かる最中、落ちた短剣を左手で回収した女は、それを使って広範囲の連撃を繰り出してくる。対してそれを受ける武器の無い父は、やむを得ず腕に炎を纏い、それを振り回して反撃に出る。


 女の短剣を時に避け、時に燃え盛る腕で弾きながら、女を殴打する父。並みの獣相手なら一撃で致命傷を与えることも可能なそのパンチが、女に何度も入った。しかし女にダメージは感じられず、短剣による連撃の勢いは、衰えることがない。


 対して父の燃え盛る腕は、明らかにその勢いを当初よりも失いつつあった。魔力が尽きてきたのだ。それに伴って父が女へパンチを入れる回数も減っていき、連撃を防ぐので精一杯という様子に変わってくる。


 そんな父の劣勢を、離れた所から地面に尻もちをついたままのルドルとリーアもまた、理解していた。


 「お父さん!!」


 必死に叫んで父を鼓舞するルドル。その隣で、リーアは悔しい気持ちで一杯だった。このままいけば、ルドルの父もルドルも殺されてしまう。そんな状況で何も出来ない自分が、リーアはとてつもなく恨めしく、その目からは自然と涙がこぼれた。


 「くそっ!!」


 このまま戦闘が長引けば、自分の魔力が先に尽きる。そう感じた父は、賭けに出た。


 女の連撃を避けながら、父は残った魔力を静かに左手に込める。そして、連撃の隙間を縫って、一歩踏み込み、女の顔面へと渾身の一撃を叩きこんだ。


 「うらぁっ!!!」


 狙いすました父のその一撃は、女の頭を正確に捉えた。連撃はピタリと止み、夜道に静寂が戻る。


 やったか……?そう思った瞬間、父は違和感に気がついた。あれほど強烈な一撃を当てたにも関わらず、女の頭の位置に変化がない。


 「っ……!」


 直後、父が自らの拳越しに見たのは、ニッコリと不気味に微笑む女の顔だった。


 そうして、魔力の枯れ果てた父目掛けて、女は短剣を握る左腕を振り下ろした。


 「お父さあああああん!!」

 「いやあああああ!!」


 ルドルとリーアの叫び声が、夜闇に響き渡る。


 その瞬間、女の動きがピタリと止まった。


 今にも父を捉えんとする女の短剣は、しかしそこから微動だにしない。


 何が起きたか分からず黙り込むルドルとリーアと父。一瞬の静寂の後、女の上半身は下半身と別れて横へと傾ぎ、そのまま地面へと落下した。


 ドサッという生身が立てる落下音と、短剣が地に落ちる軽やかな金属音が、静寂に包まれた夜道に木霊した。


 呆気に取られるルドルの視線の先で、地面に横向きに倒れた女の目は、先ほどまで死闘を繰り広げた父の方を見てはいない。


 その両目は、真っすぐにルドル達の方へと向けられていた。


 最期まで何も発することの無かった女だったが、その口元は僅かに微笑んでいるように見えた。


 そうして、地に落ちた上半身と、地面に立ったままの下半身は、先に落ちた右腕と同様に、黒い粉となって、風に消え去った。

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