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14話

 すっかり日も暮れ、薄暗い部屋の中でルドルは目覚めた。


 ベッドの上で身を起こし、今しがた見た夢のことを考える。ルドルにとってその夢はあまりにも鮮明で、とても辛く感じられた。


 夢の中で戦い傷ついていたあの人たちは誰なのだろう。夢の中の兵士達が身につけていた装備やアクセサリーに、ルドルはかすかに見覚えがあった。


 ルドルは一体どこでそれを見たのかを考え、先日父と訪れた市場で見かけたガラクタの山に、似たような品々が売られていたことに気がついた。


 夢の中で見た人々は、魔族ではなく人類だった。それなのにどうして魔族の市場に似たような装備達が売られていたのだろうか。ルドルは不思議に思った。


 「起きてる? ルドル」


 その時、部屋に母が入って来た。そしてベッドの上で身を起こすルドルを見た母は、驚いて言った。


 「大丈夫!?」


 駆け寄ってきた母の様子を不思議に思ったルドルは、その時初めて、自分の頬に一筋の涙が流れていることに気がついた。


 「どこか痛いの!?」

 「……大丈夫。大丈夫だよお母さん」


 ルドルは母にそう伝えて涙を拭った。けれど、どういうわけか、涙は溢れて来る。


 「ちょっと怖い夢を見ただけ」

 「本当に?」


 母はしばらくルドルの様子を確認していたが、短く嘆息すると、微笑んだ。


 「わかったわ、落ち着いたら晩御飯にしましょう」


 母はそう言ってルドルの頭を撫でると、部屋を出て居間に戻って行った。


 静まり返った部屋で、ルドルは1人、居間から聞こえてくる父を叱る母の声を聴きながら、夢のことを考え続けた。


 ルドルと父母の3人で食卓を囲んだその日の夕飯では、父はひたすら母を宥め続けていた。


 勇者の剣がある場所のことは、父は母にも秘密にしているようだった。そのため、何があったのかを語ることは出来ず、朝から1日歩き回って疲れて眠ってしまったルドルをおぶって帰ってきたのだ、という説明をしていた。


 「……ごちそうさま」


 結局父の説得は夕飯が終わってからも続き、食事を終えて部屋へと戻るルドルの背にも、その必死の言い訳が聞こえ続けていたのだった。




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 ある日の昼食後、父は張り切った様子でルドルに声を掛けた。


 「そろそろルドルにも少し稽古をつけるか」


 まるで父の威厳を見せてやる、とでも言いたげなその顔つきを、ジトっとした視線で母は見つめて言った。


 「あまり無茶なことはしないでくださいよ?」

  「……分かってる」


 その時、コツコツと玄関の扉を叩く小さな音がした。


  「来客か、誰かな」


 空気を変えようと大きな声でそう言う父に、ちょうど昼食を食べ終えたルドルは言った。


  「僕が見て来るよ」


 そう言って椅子から飛び降り、玄関へと向かったルドル。


 扉を開けた先に居たのは、よく見知った小さな来訪者だった。


 「……こんにちは」


 そこに立っていたのは、魔族には珍しい青い髪の持ち主、リーアだった。


 開かれた扉に向かっておずおずと挨拶したリーアだったが、現れたのがルドルだと気がつくと、パっとその表情が明るくなった。


 「勇者様! こんにちは!」


 その明るい声に惹かれたように、リビングからルドルの父と母もやって来た。


 「あらリーアちゃん、今日も来てくれたのね。今日はルドルが居て良かったわね」


 母はすっかり機嫌を直して、小さな来訪者にそう声をかけた。ルドルに命を救われてからというもの、リーアは毎日のようにルドルの家にやって来ていた。そして、ルドルのことを勇者と呼び慕っていた。


 母の言葉に、照れ臭そうに微笑むリーア。そんな表情がころころと変わるリーアを見て、自然とルドルも笑顔になった。


 「あなたと遊びたくて来てくれたんだから。遊んでらっしゃい」


 そう言って軽くルドルの背を押す母。一方で父は、その後ろで、ルドルとの稽古が出来なくなったことを、僅かに肩を落として残念がっていた。




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 家を出たリーアとルドルは、近くの川へ向かうことにして、並んで歩いていた。


 「勇者様に聞きたいことがあるの」

 「僕の名前は勇者じゃなくルドルだよ」


 勇者勇者と呼ばれることが何となく気恥ずかしくて、ルドルはそう返した。そんなルドルの言葉に目を丸くしたリーアは少しもじもじとし始める。そして、意を決したように言った。


 「ル、ルドルに聞きたいことがあるの!!」

 「う、うん何……」


 リーアの思いがけない大きな声に驚きながら、ルドルはリーアの話を聞いた。


 「私ね、男の子みたいに力持ちじゃないから、ルドルみたいに魔法を使って人助けできるようになりたくて練習してるの。それでね、この前助けてくれたときの魔法ってどうやったのか教えて欲しいの」

 「そうなんだ。でもごめん、あの時は必死だったから、自分でもよくわからないんだ」

 「謝らないで!」


 申し訳なさそうなルドルに向かってブンブンと手を振って否定しながらリーアはそう言った。直後、リーアはハッと何かを思いついたようだった。


 「だったらルドルも一緒に練習しようよ! 魔法の練習!」


 そう言ってルドルの両手を、その小さな両手でグイッと包み込むリーア。


 一方のルドルはといえば、そんなリーアのキラキラと輝く瞳に、吸い込まれそうになりながら見惚れていた。


 「どうしたの? 私の顔に何かついてる?」

 「! いや、ついてない。やるよ、一緒にやる!」


 慌ててそう返したルドルの言葉に、リーアは嬉しそうにやったーと喜ぶ。川の方へと向かうリーアの足取りは、先ほどよりも軽やかで、小さくスキップしていた。

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