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1話

==============

こちらの作品は途中で連載を終了しております。

削除するのも勿体ないので記録として残しております。


短い間ですがありがとうございました。


別名義で一から作成し直す予定ですので、どこかで巡り合えた際はどうぞよろしくお願い致します。

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 「バインド!」


 男がそう叫ぶと同時に、男の周囲の地面が青白く光る。そうして、男の周りに立っていた複数の魔物達はその光によって拘束され、動きを止めた。


 男は、動かなくなった魔物達の間をすり抜けるようにして駆け出す。


 しかし、彼の周囲に存在する魔物の数はあまりにも多かった。少し走った所で、更に多くの魔物達が、今度は空から彼に狙いをつけてきた。


 「頼む、アニマ!」


 足を止めないまま彼がそう叫んだ直後、彼の上空にいた魔物達が、大きな炎の塊に包まれた。


 「上は任せろ、行け!」


 走り続ける彼よりも少し大柄な、アニマと呼ばれた茶髪の男は、美しい意匠の杖を振りながら、空に浮かぶ魔物達に次々と魔法を繰り出し続けた。


 アニマによって空の安全を確保出来た彼は尚も走り続ける。すると今度は、これまでの魔物達とは比べ物にならないほど大柄な魔物が、その行方を阻んだ。


 すると、足を止めかけた彼のすぐ横を何かが跳躍していく。それは素早く大柄な魔物の正面に迫ったかと思うと、身の丈ほどある大きな斧を軽々振り下ろして、目の前の魔物を吹き飛ばした。


 「! アニクト!」

 「ここは引き受けたから早く!」


 アニクトと呼ばれた銀髪の女性は、先刻吹き飛ばした大柄な魔物がまだ動いているのを確認しながら、男の方にそう叫んだ。


 男は一瞬躊躇ったものの、決意を固めたのか、アニクトをその場に残したまま、再度走り出す。


 しばらく走った所で、男はようやく足を止める。そこは石造りの巨大な城の最上階。彼はようやく『目標』に辿り着いたのだった。


 これまで彼の歩みを妨げてきた数々の魔物達。そのいずれも遠く及ばない、そんな覇気を纏った大きな魔物。


 魔物達を統べる王。魔王が、彼の立つ広間の最奥の玉座に座っていた。


 冒険の果て。遂に魔王と対峙した彼は呼吸を整え、腰に下げた剣に手を伸ばす。すると、そんな彼の身体が、柔らかい光に包まれた。


 「ステラ……」


 いつの間にか合流していた、彼の最後のパーティーメンバー。ステラと呼ばれた女性は、彼の身体に様々な支援魔法を施し終えると、魔王とは反対側、彼が走って来た方へと向き直る。


 「背中は任せて」

 「……わかった」


 彼を追ってきていた魔物達を迎え撃つべく、広間の入り口へと歩き出しながら、ステラは一人大広間に残ることになる男へ声をかける。


 「これが最後。頼みましたよ、ニクス!」


 パーティーメンバーの援護を受けて、遂に魔王との一騎打ちに臨む男。勇者ニクスへとそう声をかけて、ステラは大広間を後にする。


 勇者と魔王。ただ二人きりが残された大広間。長い長い戦乱の世の終わりとなる、最後の闘いは、そうして始まり、そして決着した。




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 勇者ニクスが魔王を討伐してから数十年後。


 残された魔物達について、ニクスが「争いを起こさず平和に暮らして欲しい」と旧魔王陣営と人類陣営の双方に依頼したこともあって、所謂残党狩りのような争いも起きず、世界は平和に穏やかな発展を遂げていた。


 ニクス達一向に魔王討伐を依頼した人類陣営の総本山であるマルス王国は、凱旋した勇者一行を歓待した後、王国の顧問となることを打診。これを快諾したニクス達は、それぞれの強みを活かしながら、王国の再建に寄与。これによって、マルス王国は、戦乱の世の前よりも強く、団結した、平和を愛し率いる国家へと変貌を遂げていた。


 そんな平和な王国の王宮。その一室で、すっかり老いた勇者ニクスは、ベッドで身を起こして、窓の外を眺めていた。


 「最後に残ったのが儂か」


 窓を通して外から降り注ぐ柔らかな陽光に包まれながら、小さく呟くニクス。侍従も全て下がらせ、部屋には一人きりだったため、その呟きに反応する者はない。加えて、その呟きが意味する通り、ニクスが「一人きり」なのは今この部屋だけのことではなかった。


 「アニマ、アニクト、ステラ。皆儂を置いて先に逝ってしまった」


 戦いの後、王国の発展に生涯貢献し続けた魔法使い、女戦士、修道女。そのいずれもが、最早この世には居なかった。


 苦楽を共にした仲間達との冒険の日々を、ニクスはまるで昨日のことのように思い出せる。けれどそんな記憶の明瞭さとは裏腹に、現実では無常にもあの冒険の日々からとても長い歳月が経過していた。その間に、仲間は一人、また一人とこの世を去り、パーティーメンバーで最後に残ったのが勇者ニクスだった。


 去り行く仲間達を次々に看取り、自らも余命幾ばくも無い身となったニクスは、果たして自分達の冒険の日々にどれほどの意味があったのだろうとふいに感傷的になることもあった。


 そんなニクスを勇気づけてくれていたのは、現在の王国の発展ぶりと平和な世の中の存在だった。


 魔王率いる魔物達とそれに対峙する人類の争い。ほんの数十年前まで続いていたあの争いの最中では、今のような穏やかな世界は誰一人として想像することが出来なかった。けれどそんな世界は、今確かにここにある。


 世間ではニクスは「憎っくき魔王を討った勇者」として称賛され、尊敬されている。しかしニクス自身が考える自らの人生の価値有る行動は、魔王を討ったことでもなければ争いに勝利したことでもなかった。


 平和な世の中が実現したこと。それこそがニクスにとって何よりも嬉しいことで、同時に自らの人生における最も誇らしい成果だった。


 「願わくばこの平和がずっと続いて欲しいものだ。それこそ、もう2度と、誰かがワシらのような冒険をする必要もないほどに……」


 窓の外に広がる青空を見つめながら、ニクスは最後の祈りを捧げるように、ポツリとそう呟いた。


 勇者ニクスの訃報が王国中を駆け巡ったのは、それから数日後のことだった。

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