黄色い土地とビワの木 2
棟ごとの中庭というか玄関の反対側には、おそらく住民同士が暗黙のまま互いにスペースを確保した車やバイクが駐車していて、大概は疲れたスーパーカブと軽トラックか現場仕事の荷物を満載する商業用バンだ。一台だけ赤いトランザムもあったのだが、塗装は陽に焼けて色を薄くしていたし前輪のどちらかがパンクしたままだった。ボンネットの火の鳥は白く焦げていた。夏になるとほぼほぼ裸の大人がウロウロし、気持ち汚れた肌着一枚でハの字に垂れる乳房と乳首を透かせるおばさんも多発した。一方で色の派手な小さい下着が警戒なく玄関わきに吊るされていることもあり、私は横切る度に必ずその戸口はチェックしたものだ。
仲のいい友達と待ち合わす児童公園や、一時集中して通った歯医者に行くときには千賀の住む家の前を横切り敷地の裏側にある、細い抜け道を使った。触ると白い粉がつく青い波状板金の壁が続き、黄色い土地とを隔てた。そこは横長の板状コンクリートが隙間なく蓋をしていた。かつては生活用水路だったのだと思う。自転車がコンクリートのつなぎ目を越える度に、ボコっ、ボコっ、と下にも響く音がした。あんな重そうなコンクリートの板を捲ったりどかしたりして確かめる者は誰もいなかったけれど、裏側には細長い空洞が続いていることを知らない者はいなかった。
道幅2mほどのうす暗い裏道には当然様々な粗大ゴミが投げ捨てられていた。主に黄色い土地の住民が捨てていたのだろうと思う。空瓶の収まるビールケース、赤いポリタンク、車のバッテリー、テレビのブラウン管や再生ボタンのないラジカセ、弦の錆びたアコースティックキダーだったりギターケースだったり、炬燵や扇風機だったり布団だったりが所々で山となり、硬く口を結ばれる45ℓの黒いゴミ袋がゴロゴロしていたものだ。通りの向かい側に住む住民は当然役所へ苦情を入れていたはず。それでもゴミはなかなか減らずに狭い裏道はもっと狭められていた。ただ猫の首が転がっていることはなかった。そういうことが時々おきていたのは、全く違う地域だった。駅からもバス停からも離れた坂の上にある典型的閑静な住宅街。屋根のついた駐車場と芝が植わる庭の戸建が並び、一角には三面のコートを有するテニススクールまである番地に、両耳を突っ立てた猫の首やらは転がった。
・・・・・・あのころはまだ「底」が抜けてしまう前だったのだろう、乾いてねじ曲がる性欲の儀式は猫か鳩で事が済んだようだ・・・・・・。