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ドア・ロックアームと足元を冷やす春の夜 2


 ついうっかり、ではないことが十分に伝わる自信がある。私たちには、密かに抱く互いの意図を読み取る能力が備わっているのだ。言葉少なく、あるいは反対の言葉であればあるほど私たちは互いに大まかな輪郭だけは必ず読み取ることが出来るのだった。それくらい訳もなく出来るようになるくらいの苦労を共有してきた。借金だけでもなかった強く吹き続けた向かい風に対し、今よりずっと若かった二人は互いの身を守り合い、削りもした。二度とはごめん被りたい、まるで贖罪の一括払いのような苦難を耐え忍び、時として他人の道徳的な正しさに目をつむり、仕方のないことなのだ、と励まし合った。いつか二人の生活がうまく行くようになったら、こういうツケは二人で分割しながら必ず返しましょう、と妻は率先して汚れ、私を庇ってくれた。


 家柄の見合う縁談を蹴り、代わりに連れてきた私の身辺調査を宣言通り実施したおかげでしばらく完全に寝込んでしまった母親と、何かと意識していた親戚に大笑いされて大喧嘩したときから怒りで拳の震えが止まらぬ父親に勘当され、こちらもそれを望んだ長女だったが、嫁いだ(と呼びたくはないはずの)先でもっともピークだった時期に、一度だけ実家へ頭を下げ援助してもらっていたことを、子供が生まれるまで私は知らなかった。

 

 ちなみに妻の実家は私のことを今でも性犯罪者よりも汚らわしい男、と呼んでいる。もちろんその言われ様は名誉なことです、と私は彼らにとって唯一の男の子の孫となる息子を私の手から抱かせてやった。そのときどんなに嫌な人間でも嬉しさに顔をほころばすものなのだな、と実感したにはしたものだ。


 妻の掌に伝わる(ドア・ロックアームが作用した)小さな衝撃を想像してみた。そしてそれは当然のこと余りに惨めだった。私が惨めなのか妻がそうなのか、私には判別が付かなかった。そこで私は「今でもよく覚えている衝撃」をありあり思い出すと、なんとも滑稽で笑ってしまった。理不尽であり、後戻りのない推進力の火を噴いた怒りのまま3DSの首をへし折るに必要だった力は、板チョコを割る程度と変わらないものだった・・・・・・真っ二つに分割された長方形の残骸をどうすればいいのかを悩んだ。最終的に私はコントロールの側を下に、画面の側を上に重ねて流しの上に置いた。翌朝それは片付けられていた。




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