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潜伏キリシタンと家族の臭い 1



 友達のいない千賀はいつも微笑んでいた。たまご顔だった口元を軽く解いて人へ話しかるとき彼は必ず相手の目を真っ直ぐに見た。私は彼の顔を詳細には思い出せない。常に微笑んでいたこと、相手の目を真っ直ぐに見ていたこと、輪郭は確かにたまご型だったはず。小太り体型で背は高くもなく低くもなかった。幾らか色素の薄い髪の毛が前に向かって生えていた、そんなくらいしか思い出せない。きっと他の顔のパーツは余り特徴的とは言えなかったのだろう。あるいは常に浮かべていた微笑みが余りに特徴的だと覚えているので、それがすべての印象になっているのかもしれない。

 彼の微笑みはいつだって、私には気に入らないものだった。彼に友達が出来ないのは、友達を作ろうとする、その意図を読み取れるあの不自然な笑顔が一因にはなっていたはずだ。彼の目が真っ直ぐに私や誰かの目を見ているのは、ぼくは真摯に人と接する人間なんだよ、と感じ取らせたいがためだったに違いない。勉強は割と出来なくて、運動は更に不出来な奴だった。たまに発する冗談はかなりつまらなく、学校だけで流行っているか、全国的にテレビで流行っているものでも彼が口にすると誰も笑わなかったし、ともすれば腹が立った。それでいて彼は決して挫けることがなかった。悲しそうな顔は一度も見たことがない。もっとも悲しい話(たとえば飼っていた猫や犬が死んだ、とか身内の誰かが病気で入院した等々)を彼と共有する者は決していなかった。もし仮に誰かが、毎晩一緒に寝ていた猫が死んでしまった、と言ったとしたら彼は悲しそうな顔で悔やんであげていたことだろう。そして「この悲しみ」について誰よりも希望に満ちる解釈を述べ、代理的犠牲の尊さなども語り、最後には涙目の相手の肩を抱きかねない。しかし喪主はこう思うはずだ。うちの死んだ猫がどうあれ、千賀はぼくと友達になりたいだけなのだろう・・・・・・今思えば、それは全くの言い過ぎだと思うのだが、あの屈しない微笑みを嫌悪していた当時の私にはそう思えていた。と言うか信じていた。でも結局は貧乏人同士、彼を過剰に意識していたに過ぎない。



 ときどき風呂屋で顔を合わせてしまうと、お前なんかと話すのは本当に嫌だ、というマイナス6度の見事な顔をしてやったものだ。ただはっきりと口にはしなかった。あくまで示すのだ。その理由は彼が学校に於いて決定的なターゲットとはならずにいられた要因であると同時に、友達が出来なかった遠因でもあったと思う。唯一の「父子家庭」だったということだ。


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