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この結果は全て貴方が招いた事です  作者: 富士山のぼり


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9/12

番外編 側妃セラフィーナ

 オリヴェル・ケストナーは王立学園卒業後、実家には戻らなかった。

王立学園時代に築いた人脈を利用して海外に移住したのである。

彼がそうしたのは実家に戻ると自分よりも優れた兄と比較されるのを嫌ったからであった。

海外留学というのは只の方便である。


 貴族の次男坊と云えば普通領地を継ぐ事は出来ない。

ましてや優秀な兄が居る自分には。

親が持つ別の爵位を貰う以外は自分で自分の立場を築く必要があった。

官吏や騎士になる事がお決まりのコースだが興味を持てない。

オリヴェルは海外に行って何か他の生きる道を探す事にした。


 オリヴェルが学生時代に知り合った知己は隣の軍事大国の高官の子息だった。

帝国の属国とも揶揄される事のある王国から海外留学する場合の行き先はやはり帝国が多い。

だが、まだ当時は王国と軍事大国の仲は悪く無かったのでオリヴェルは行き先をそちらに決めた。


 間借りした高官の子息の家は豪華だった。

その屋敷のあまりの大きさにオリヴェルは驚いた。

国民は皆つつましい身なりなのに高官の子息の身の回りは全て豪華な物で満たされている。

実質的な支配階級という事が見て取れた。


 高官は留学から帰ってきた息子と息子の連れて来た友人の為に催しを開いてくれた。

その時がオリヴェルにとって重要な転機だった。

高官が家に招いた中に居た美貌の女性にオリヴェルは目を止める。

その踊り子の名はセラフィーナと云った。


 オリヴェルはセラフィーナと恋に落ちた。

最愛の夫を不慮の事故で亡くしたセラフィーナの心を埋めたのがオリヴェルだった。

6歳年上のセラフィーナには幼い娘がいたがその娘もオリヴェルにとてもよく懐いた。

オリヴェルはセラフィーナとその娘を心から愛した。


 しかし、そんな幸せな日々も突然終わる事になった。

オリヴェルの祖国の王、ヴィルヘルムがこの国にやって来たのだった。

ヴィルヘルムは歓待の為にこの国の貴賓館に呼ばれたセラフィーナに目を付けた。

そしてそのまま自分の国に連れて帰る事を望んだ。


 軍事大国の国民は国家に奉仕する存在であった。

人の為に国があるのではなく国の為に人が存在する。

一般人の意志や現在の境遇などは関係ない。

セラフィーナは両国の友好のあかしとしてヴィルヘルムへその場で土産として贈られた。


 オリヴェルとエヴァリーナがその事を知ったのは翌日の事だ。

何時までも帰ってこないセラフィーナを案じたオリヴェルはすぐに動いていた。

家主である高官を通じて事情を調べてもらったのだ。

しかし全ての事を知ったのは既にセラフィーナは王国に連れ去られていた後だった。



「そんな……セラフィーナ、もう会えないのか?」


「お母様……」



 一人残されたエヴァリーナが頼る先はオリヴェルしかなかった。

自分にしがみついて泣きじゃくるエヴァリーナをオリヴェルは引き取る事に決めた。

そして、数年ぶりに自国に帰る事を決意した。

何とかしてセラフィーナに会う為に。


 久しぶりに実家に帰ると既に兄が実質的に伯爵領を仕切っていた。

兄の命令でオリヴェルは自分の代わりに副外務卿に就く事を命令された。

働かざるもの食うべからず、ではないが兄としては王宮より要請のあったその任に就く余裕が今は無かったのだ。

父は体を壊して伯爵領の片田舎に隠居をすることになり、領の運営を任されたからだった。


 オリヴェルは伯爵邸の別邸でエヴァリーナと暮らし始めた。

そして仕事の合間に伯爵家のあらゆる伝手を使ってセラフィーナと会えるように手段を尽くした。

しかし、ついに会う事は叶わなかった。


 一方、王国の後宮に連れ去られたセラフィーナも何度もヴィルヘルムに頼み込んでいた。

オリヴェルとエヴァリーナに会わせて欲しいと懇願した。

だが、ヴィルヘルムが首を縦に振る事は無かった。

願いは聞かないのに連日の様に頻繁にセラフィーナを抱きにやって来るのだが。 


 後宮でのセラフィーナの立場は非常に危ういものだった。

他の側妃達からの嫉妬が凄まじかったのだ。

既にいた側妃達からすれば突然異国から来た女に国王の寵愛を全て奪われたのだ。

我慢できるものでは無い。


 慣れない異国。味方のいない後宮暮らし。

そしてエヴァリーナとオリヴェルを想う気持ち。

セラフィーナは徐々に心を病んで王国へ来て約一年後、死んだ。

表向き病で死んだ事にされたが正確には結託した側妃達の手によって毒殺されたのだった。


 オリヴェルとエヴァリーナがセラフィーナが亡くなった事を知ったのはやはり事後だった。

一般にも知らされる王宮通知で側妃の一人が亡くなった事を知ったのだ。

特に大々的な葬儀も無かった。


 セラフィーナを永久に失い亡骸に合う事も出来ず嘆いていた二人だったが、オリヴェルの心の沈み込みはある意味エヴァリーナ以上に深かった。

なぜなら無力な子供のエヴァリーナと違って自分は王国に連れて帰る事が出来たのだ。

ヴィルヘルムにセラフィーナが連れ去られる前に。

出来た事をしなかっただけにオリヴェルは深く後悔していた。


 そしてオリヴェルは酒に逃避した。

災害視察に行った兄が事故死して急遽跡目を継ぐ事になった事についての過労もある。

不幸続きの自分を嘆く。

全てに置いて何も出来なかった自分自身の情けなさを呪う。


 しかし、それでも有能なオリヴェルは当主としての仕事はきちんと果たしていた。

だがその表情は常に生気がない。

夜になると執事や使用人を遠ざけて一人深酒に溺れては机に付したまま眠りについていた。


 義父の心情を誰よりもよく分かっていたエヴァリーナにそんなオリヴェルを嗜めることなどできなかった。

自分も母を失って無論気が狂いたくなるほど悲しいが、自分以上に抜け殻の様になった義父が痛ましい。

でも子供の自分は義父の為に何もできない……。


 今日もオリヴェルは酔いつぶれて寝入っていた。

外に出る時は手入れしている髪は乱れ端正な顔には涙の痕が付いていた。

義父が無力感にずっと苛まれている様にエヴァリーナには思えた。



(お義父様、私がずっと傍にいます)



 心の中でエヴァリーナはそう言って寝入るオリヴェルの広い背中にそっと抱き着いた。

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