この結果は全て貴方が招いた事です
アウグストは知らない。
かつて父王が異国で手籠めにした未亡人が留学していたオリヴェルと恋仲だった事を。
強引に側妃にしたその女性、セラフィーナがエヴァリーナの母だった事を。
セラフィーナを失って悲嘆に暮れていた義父をエヴァリーナが献身的に支えた事を。
オリヴェル自身は気付いていなかったが、元々エヴァリーナはオリヴェルを一人の男性として見ていた。
母が生きていればエヴァリーナのその思いは永久に封印されていた筈だった。
だが、不幸にも母は死んだ。その原因については想像に難くない。
エヴァリーナに自分の想いを抑える事は出来なかった。
自分を異性として求めてきたエヴァリーナをオリヴェルは拒んだ。
しかし母の面影を継いで美しく成長した義娘を拒み続ける事は出来なかった。
ついに積年の想いを遂げた時エヴァリーナは愛しい男にもう一つの想いを告げた。
『お義父様、私達でお母様の敵をとりましょう』
その言葉を聞いた時、オリヴェルの中にも初めて暗い復讐の炎が宿ったのだった。
エヴァリーナが王立学院に入学する時、アウグストは生徒会長だった。
爽やかな生徒会長も一皮むけば無類の女好きだと分かっていた。
美しい女性ならば必ず彼の目に留まるはずだし、その通りになった。
実際、アウグストはエヴァリーナを認識してからは表向き放蕩をやめた。
全ては完璧な令嬢、エヴァリーナを手に入れる為に。
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(俺はこの親子の茶番に付き合わされた道化だったのか?)
自分が殺される理由はわからない。
しかし、朦朧とする頭の中でアウグストはこの二人に謀られていたという事だけは分かった。
今、国王たる自分は王宮の寝室で血を流して這いつくばっている。
考えたくない事だが自分は確実に近づいている。
自分が父を追いやった世界へ。
父の女癖の悪さは充分分かっていたつもりだった。
立場と力を使って臣下の嫁を奪った噂ももちろん聞いた事がある。
話を聞くところだとオリヴェルもこの親子もその一人だったのだろうか?
しかし無論、父親の全ての行状と内容を事細かく知っている訳でもない。
「……陛下は父上殿と下種な所がよく似ておられる。
この子は貴方に似ずにすむので安心ですが」
そう云ってオリヴェルはエヴァリーナの腹に視線を落とす。
その事はアウグストにとっての残酷な真実を示していた。
(どういう事だ。何を言っている。まさか……)
痛みに朦朧とするアウグストにエヴァリーナがとどめを刺す。
「このお腹の子は表向きは陛下と私の子です。いずれ王座に就くのに不足はないでしょう」
(馬鹿な!)
あの初夜の時の事は良く覚えている。
エヴァリーナの恥じらう顔も。その輝く様な裸体も。
しかし、その後が続かない。よくよく考えれば重要な所はあやふやだ。
あれはまさか妄想だったとでもいうのか?
あの時一瞬眠気を感じた事をアウグストは思い出した。
ようやく結ばれたと思ったあの日、気が付けば夜は明けていた。
寝台から身を起こしたアウグストの隣にはエヴァリーナの姿は無かった。
その後、新妻を抱こうにも中々機会が無かったのだ。
エヴァリーナが体調を崩しただのなんだのと理由を付けられて。
そして程なくして妊娠が発覚した。
「ご安心ください。成人するまで私がエヴァとこの子を支えましょう」
恨むのなら親と自分自身をお恨みするのですな」
「……なぜ俺を……俺のせいではないだろう……」
エヴァリーナはオリヴェルに向ける眼差しと正反対の冷たい瞳でアウグストを眺めていた。
そして凍る様な冷たさでアウグストの問いに答える。
「貴方に弄ばれて命を絶った令嬢の事はお忘れですか。
彼女は私の大切な友人だったのです」
ある子爵家の令嬢とエヴァリーナは交流が深かった。
2歳上の彼女はオリヴェルに付いて異国から来たエヴァリーナに色々と良くしてくれた。
そんな彼女が亡くなった事を聞いたのは王立学園に入学する半年前の事であった。
学生時代にエヴァリーナがしていたシンプルな髪留めは彼女の遺品なのだ。
これはアウグストへ対するメッセージでもあった。
しかし勿論そんな物に対する記憶はアウグストには無かった。
散々女性を弄んでいた男の脳裏にその様な事に割く記憶は無い。
エヴァリーナの云う事は最早アウグストは理解できなかった。
思考がまともに回らなくなってきていたので無理も無かった。
痛みももう感じない。ただ、ひたすら眠くなってきて瞼が重い。
「この結果は全て貴方が招いた事です」
エヴァリーナの一言を遠くに聞きながらアウグストの意識は暗闇に沈んでいった。
※番外編に続きます




