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その後 王配の条件①

 侯爵令息ヘルマンは死んではいなかったが国王を弑逆した大罪人として捕まった。

卒業後も色々とエヴァリーナに付き纏って大変迷惑していたのだ。

以前、侯爵家の今後を考えて公表せず秘密裏に訴えたオリヴェルの気持ちは裏切られた。

 

 初めてその事を知った時、侯爵はオリヴェルに深く感謝して謝罪した。

そしてヘルマンに激怒して一時期屋敷に閉じ込めた。

しかし、実はほとぼりが冷めたその後も巧妙に何度も付き纏い続けたのだ。

オリヴェルは何をしでかすか分からないこの男を寧ろ計画に取り込んで逆に利用する事に決めた。


 ヘルマンを切ったのはアウグストという事になっている。

アウグストがなぜ寝所に剣を持ち込んでいたのかは不自然と云えるのだが現場の状況証拠をそうなる様に偽装した。

王妃たるエヴァリーナの証言があったから問題ない。

ヘルマンが何を云おうが思い込みが高じて変になった男の云う事と片付いた。



 裏の事情を何も知らない人達からすれば今回の事件の犯人に意外性は無かった。

王立学園時代、エヴァリーナに対するヘルマンの執着はある意味有名だったからだ。


 だがどうやってあの場にヘルマンが侵入してきたのか。

調査が入った結果、なんと寝室に隠し通路が発見された。

もちろんアウグストが父を殺した時に使った隠し通路である。

実はその通路は城外にも通じていた。

それをエヴァリーナに教えたのはアウグストなのである。


 初夜の時、エヴァリーナがアウグストに使った香は特殊なものだった。

夢うつつにさせて暗示を掛けやすくして自白効果もある異国産の違法な薬物である。

エヴァリーナは窓を背に風上に立っていた。

部屋の入り口近くに香を仕掛けてアウグストだけに嗅がせる事に成功した。


 アウグストはエヴァリーナに触れたあたりで自らの意識を手放した。

その際に聞き出したのだった。

いずれ今回の事に使える通路がないかを。

城にはこの手の通路は必ずつきものだから念の為聞いてみたら案の定あった訳だった。

聞きたい情報を聞き出してからエヴァリーナはアウグストに吹き込んだ。

自分達がちゃんと愛し合ったと。


 香は無論オリヴェルが手配したものであるが、直接仕入れたのはまた違う人物だ。

ヘルマンが王城に侵入する時も協力者が間に入って色々と便宜を図ったのだ。

アウグストに娘を殺された子爵である。


 その後、ヘルマンが隠し通路の情報をアウグストのかつての側近から聞いた証拠が見つかった。

勿論、伯爵とオリヴェルの用意した捏造の証拠である。

ヴィルヘルムの時代から王の側近として手足となり女性の融通を利かせていたこの男をオリヴェルは許さなかった。

セラフィーナの王国への手引きも協力していたからだ。

王族しか知らない隠し通路など外部の人間が知る由もない筈だ。

しかし、本人がいくら弁明しようとヘルマンと繋がっていた明確な証拠がある以上どうしようもない。

アウグストの暗殺事件は一応の結末を迎えた。





 ごく近い期間に先王・現国王を亡くした王国は揺れた。

だが、それでもまだ救いはある。

王妃エヴァリーナと(表向きは)亡きアウグストの子供は健在だからである。


 緊急の議会で形式的にエヴァリーナが王位に就く事になった。

父親のオリヴェル・ケストナー伯爵はエヴァリーナ女王を精神的に支える為に副宰相に就任した。

そして9か月後、エヴァリーナは無事将来の国王になる王子を生んだ。

正式な王位継承者が誕生した事でようやく皆安泰した。


 様々な激動が短い期間の内に過ぎてようやく落ち着いた頃、女王の執務室の装いが一部変わった。

接客用のテーブルセットの入れ替えである。

以前と比較して大きく違う点は今までの堅めの椅子から大きいソファーに替えられた事だ。


 ソファーは非常に柔らかい座り心地でまるでベッドの様に沈み込む。

そして表面には替えの利く上質なシーツがかぶせられていた。

座った訪問者は皆多少違和感を持ったが、むろんただの椅子なのでそれ以上疑問を持たない。


 だがこのソファーはある人物が来る時だけ本来の用途と違う使われ方をしていた。

その人物とは女王の父である副宰相のケストナー伯爵である。

臣下としての礼を恭しくとってから入室したオリヴェルをエヴァリーナは満面の笑みで迎える。

扉が閉まった途端、エヴァリーナはオリヴェルの元に駆け寄った。



「待たせたな、エヴァ」


「お義父様、お待ちしておりました……」



 既に臣下には「実家の個人的な話」という事で席を外させている。

義父も夫もなくし、若い身で重責を担わされる事になった若い女王には精神的に頼る人物も必要。

側近も臣下も何も疑いもなくそう考えていた。

勿論彼らはオリヴェルとエヴァリーナの親子関係は義理のものだとは知らない。


 オリヴェルとエヴァリーナは抱き合って口づけを交わしソファに身を沈めた。

衛兵や臣下達もまさか執務室の扉の向こうで美貌の女王とその父が愛を交わしているとは想像しない。

二人は執務中それぞれの役割をきっちりこなしていた。

が、それと同時に怪しまれない程度に逢瀬を重ねていた。

身分が違う今は気軽に伯爵邸で会える訳ではなかったからだ。


 事を済ませると隣室の控えから3人の侍女がやってくる。

全員伯爵家から呼ばれて側付に抜擢された伯爵家に忠誠を誓う口の堅い侍女達だ。

侍女達はてきぱきと痕跡を消してソファのシーツを交換し、二人の身なりを整えた。

そしてオリヴェルもエヴァリーナも何食わぬ顔でそれぞれの執務に戻って行った。 

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