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「少し前に、わたしが望みを叶えたお嬢さんですよ」
「………ちょっと待て! 沙苗の…望み…?」
「はい」
勇太の胸中が、ゾワゾワとざわめいた。
何か恐ろしい予感がする。
全てが壊れてしまいそうな。
「沙苗の願いは何だ!?」
「勇太! 生き返らせてくれて、ありがとう! 私、ひどい場所に居たの!」
少しずつ濃くなっていく沙苗が、嬉し涙を流して感謝する。
しかし、勇太はそれどころではなかった。
「悪魔! その時の沙苗の願いを教えろ!」
「え? えーと…確か好きな男性の彼女になりたいと…その男性には彼女が居るけれど、どうしても付き合いたいって…ありゃ? もしかして、その男性があなた…」
「勇太、愛してるわ!」
ほぼ身体を取り戻した沙苗が、勇太に抱きつこうとする。
「悪魔!」
「はい?」
「願いはキャンセルだ!」
勇太に触れる寸前、沙苗の姿は霧散した。
「あらら。彼女、また地獄に逆戻りですね」
悪魔が肩をすくめる。
「許せませんでしたか?」
「ああ…」
勇太が頷く。
ひどく青ざめ、微かに震えていた。
「沙苗をどんどん好きになったのは、お前の力のせいだったのか…だから、あんな簡単に美奈を忘れてしまった…」
勇太が唇を噛む。
「何より許せないのは…美奈が事故に遭ったと知っても願いをキャンセルしなかったことだ。その時なら、まだ間に合ったかもしれないのに…」
「なるほど。まあ、彼女がどの時点で美奈さんの事故に気付いたかは、今となっては確かめようもありませんが…さて、どうします? 今度は美奈さんを生き返らせますか?」
「いや…」
勇太が、首を横に振った。
「美奈には悪いけど…ぼくは絶対に地獄には行きたくない」
しばしの沈黙の後、勇太は再び口を開いた。
「沙苗の顔を2度と見たくないから」
「そうですか…分かりました! では、わたしは他の人のところへ行きますね。あなたと居ても取引成立は難しそうですし」
「ああ。ぼくは何も願わない」
「では、さようなら」
悪魔は深々と頭を下げ、姿を消した。
勇太がスマホの画面を見ると悪魔アプリも無くなっている。
深いため息が出た。
大切なものを失った。
否、すでに失っていた。
だが、勇太の過失ではない。
どうしようもなかったのだ。
悪魔アプリを使う前よりも、ほんの少し前向きになれる気がした。
おわり
最後まで読んでいただき、ありがとうございます(*^^*)
大感謝でございます\(^o^)/