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ある日、中島勇太のスマホに、インストールした覚えのないアプリが入っていた。
「悪魔アプリ? 何これ?」
起動させると「悪魔を呼びますか?」の下に「はい」と「いいえ」が並んでいる。
気付けば勇太は「はい」を押していた。
ワンルームの勇太の部屋に突如、簡単なイラスト風の愛嬌ある悪魔が現れる。
「うわ!?」
驚く勇太に悪魔が「こんにちは〜」と、気さくに挨拶した。
それから悪魔は死後に地獄に落ちる代わりに、身の丈に合った望みなら、ひとつだけ叶えられると説明する。
「身の丈?」
「ええ、分相応です。望みを具体的に言っていただけたら、わたしが実現可能かお答えしますから」
「………」
「あ! そうですよね。どうしてこんなことするか、気になります? 最近、わたしたちのノルマも大変でして。わざわざ自分で調べて、悪魔召喚する人も減りましたしね〜。だからこうして、この時代に合った勧誘を」
「人間を」
勇太は悪魔の言葉を遮った。
「生き返らせれるか?」
勇太は高校1年から付き合っていた美奈を大学に入ってすぐ、不慮の事故で亡くした。
そのショックは大きく、しばらくはひどく落ち込んだ。
それを親身になって励ましてくれたのが、同学年の沙苗だった。
彼女の献身的なサポートで、勇太は何とか1年ほどで日常を取り戻した。
美奈には申し訳なかったが、不思議と沙苗にすんなりと心は移っていた。
自分でも、あまりに薄情だなという違和感はあった。
しかし、日に日に沙苗への感謝と情愛が募り、とうとう告白して付き合うことになったのだ。
それから1年が経ち。
今度は沙苗が、交通事故で亡くなった。
再び、勇太の地獄が始まる。
我が身を引きちぎられたような苦悶にのたうち、まるで抜け殻のように生きた3ヶ月間。
ふと、沙苗に連絡がつくのではないかなどという、バカな考えが浮かび、スマホを見つめた瞬間、悪魔アプリが現れたのだ。
「人を生き返らせれるか?」
「1人ですか?」
頷く勇太の頭には、沙苗の笑顔が浮かんでいた。
またしても美奈には悪いが、今、勇太に必要なのは沙苗だ。
「はい、それなら可能ですよ」
悪魔がニコッと笑う。
「じゃあ、頼む。どうすればいい?」
「生き返らせる人の姿を頭の中にイメージしてください」
「それだけ?」
「はい。あとは、わたしが甦らせます」
勇太は沙苗を思い浮かべた。
今でも鮮明に憶えている。
「あ、そうだ!」
悪魔が、ポンッと手を打つ。
「たまに願ってから後悔する人や、慌てて願いを言い間違う人が居るので、1日以内ならキャンセルが出来ます」
「キャンセル…」
勇太には不要だ。
一刻も早く、沙苗に逢いたい。
勇太は沙苗のイメージに集中した。
「おおっ、来てます、来てます!」
悪魔が、テンションを上げる。
すると部屋の中央に、ぼんやりと人影が現れた。
次第に沙苗の姿になっていく。
「沙苗!」
「勇太!」
まだ半透明の沙苗が返事する。
勇太は喜びに打ち震えた。
「ああ、この女性でしたか! 奇遇だな〜」
悪魔の言葉に、勇太は首を傾げる。
「沙苗を知ってるのか?」
「はい」
悪魔が頷いた。