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シングルママ愛子 vol.80. 生気のない顔。
愛子の声で、ようやく我に返った川岸。
それでも目を真っ赤にさせ、涙は止まらない。
それでもグッと鼻を啜り、深呼吸して両手で顔を覆う。
顔を上向きにして、今度は下向きにして、
そして両手で顔を1回2回と叩き、そして腕組みをして背筋を伸ばす。
数分後、運転手の、
「着きましたよ。」
その声と共に、タクシーのドアを開け運転手に一万円札を渡し、
「ありがとう、取っといて。」
そのまま病院の玄関に駆け足で…。
「あっ、あの…お客さ~ん…。大丈夫かな…???」
タクシーが走りだすのを背に川岸は病院の中、基子の病室に向かった。
そんな川岸の表情を、廊下の看護師が見て、
そして見送り…、基子の病室のドアを開ける。
医師ががっくりと両肩を落とし川岸の顔を見る。そして、
「川岸さん。」
そして看護師も重い表情で川岸の方へ顔を向ける…。
ドアを開けて真っ直ぐに基子の顔を見て、
その生気のない顔を見て、一気に全身の力が抜け、
立っているのがやっとの状態で、ふらつきながら…。
「モコ…。」