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シングルママ愛子 vol.22. 今はそっとして…。
「実は今、ふと、基子の事が頭を過ったんだけど…。後で顔…見てきますよ。」
「基子に…栄二の事は…まだ…???」
「うん…まだ…。…まだ、どう伝えていいのか、俺自身も、まだ分からなくって…。」
「…そうね…。今度の事で、基子に余り、悲しい気持ち…させたくない…。彼女、私以上に感受性強いから…。」
「あいつには、少し時間を掛けて、やんわりと伝えたいと思います。」
「うん…。そうしてあげて…。」
滞りなく、葬儀は進まれて行った。
会社の上役が、愛子の元で、何度も何度も頭を下げる光景があった。
栄二の事を偲んで、いろいろな事を愛子に話した。
「今はそっとしておいてあげたい。」
そんな思いが川岸の胸の内にはあったのだが、
上役としても、それは考えない訳ではなかったが、
そうせずにはおられない状況もあったのだった。
その都度、愛子はその言葉を柔らかく受け止め、
ありがたく感じたのだった。
全ての流れが済み、内輪だけの故人を偲ぶ宴席が催された。
その頃にはようやく愛子も、
「いつまでも…。」
と言う姿勢で腰を上げ、動き始めたのだった。
新谷家の空気も少しずつ変わって行くのだった。