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シングルママ愛子 vol.21. 「基子の方は良いの???」
「琴ちゃん、パパね、遠くに行っちゃったのかもしれないね。」
「遠くってどこ…???ママと琴美を置いてどこに…???」
「今はまだ分からないけど、琴ちゃんがもう少し大きくなったら、分かるかも…。」
川岸には、そういう事しか琴美に話す事が出来なかった。
「ママも同じ事言ってた。」
琴美を持ち上げながら、川岸は新谷家の庭を見渡し、
そして、弔問客の黒の喪服姿を見ながら、栄二がこの世を去った今、
「これから…愛子さん…。」
そんな風に考えるのだった。
「琴ちゃんを抱えて、これから…この家で…。」
想像してもきりがない事は分かっているのだが、
そういう川岸自身も、愛する妻は今病院のベッドの上で…。
川岸の頭の中で呟いた言葉…、
「基子。」
ゆっくりと琴美を床に降ろして愛子の元に戻しながら愛子に、
「今琴ちゃん、ジュース飲んできたから…。」
愛子の傍にまた、元に戻ったように、寄り添いながら座る琴美、
琴美の背中を撫でながら、
「ありがとう川ちゃん、何から何までごめんね。…あっ、川ちゃん、基子の方は良いの???」