シングルママ愛子 vol.17. 「川じぃに着いておいで。」
もちろん、儀式により大勢の弔問客で、
新谷家に出入りが続けられていた。
愛娘の琴美に声を掛けるもまずは未亡人となる愛子に声を掛け、
その後に、愛想を振りまくように琴美に笑顔を振りまく程度なのだった。
青森の子供たちも、琴美以外には子供がいないぶん、
何とか琴美に声を掛けたい気持ちもあったのだが、
見ず知らずの顔が周囲を動き回っているせいもあってか、
中々琴美に近づく事も出来ずにいたのだった。
その中で愛子以外にも琴美を気遣ったのが川岸である。
弔問客との忙しい接待の傍ら、何かしら愛子以外でも、琴美にも気を配っていた。
「琴ちゃん、喉乾かない???」
琴美の顔まで自分の顔を下ろして、
「ちょっとだけ…喉乾いた。」
「じゃ、川じぃに着いておいで。ジュース飲もう。」
「…でも、川じぃ、忙しくないの???」
「大丈夫だって、じゃ、行こう。」
愛子に目配せをして…。
物心ついた頃から、川岸の顔は両親と一緒の顔だった。
父親や母親からは、
「川岸おじちゃんと呼ばないといけないよ。」
と、いつも言われたのだったが、中々擬音語が言えずにいたのだった。
その中で一番発音しやすかったのが「かわ」の字と「じ」だけだったのだ。
最後は語尾を長くすれば、それだけで良かった。