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シングルママ愛子 vol.13. 周囲にも親しまれた人柄。
それ以降、一家の主を失った新谷家は、
健三郎の甥の栄二がそのまま継ぐ事となり、
妻の愛子と文字通り、栄二の住まいとして所有する事になったのである。
もちろん栄二と愛子の愛の巣とは分かっていながらも、
常々川岸も子供の琴美が生まれる前は新谷家に招かれ足を運び、
和気藹々な日々を過ごしていたのである。
その後、琴美が生まれ、そして数年後には川岸も愛子の紹介で、
大学時代の後輩の日下部基子と出会い結婚。
そういう経緯の中で、川岸としては、愛子の事もあるのだが、
それ以上に、新谷家には尽くしても尽くし切れないほどの、
恩義を感じていたのであった。
葬儀の流れは愛子と相談をしながらも、
実際は川岸が殆ど、業者とのパイプ役に回っていた。
家の中のお台所事情は、会社の女子社員始め、
愛子の知人、友人が手伝っていた。
突然起こった訃報に、愛子以外にも、深い哀しみに苛まれた者は多かった。
それほどまでに新谷栄二は会社のみならず、
住まい周辺にまで親しまれた人柄だったのである。