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シングルママ愛子 vol.102. 「あら…このふたり…。」
母親の香苗は携帯電話を持っておらず、
父親の宗雄は出張先から社に戻る新幹線の中で携帯の電源は切っていた。
駅に着いて会社に向かうタクシーの中で、
妻の香苗からの電話で基子の訃報を知り、
会社へは戻らず、そのまま自宅に戻ったのだった。
白い姿のまま、もう還らぬ基子の体を優しく撫でながら、
基子の死に際に立ち会えなかった事を、
悔やんで香苗は涙が止まらなかった。
「母さん。」
そう妻の背中を優しく擦りながら、線香を焚き、
鈴を鳴らし、太い分厚い両手で、涙ながらに手を合わせる宗雄。
泣き崩れるような姿の香苗に、
「おばさん…。」
静かにそう声を掛けて、体を支える愛子。
頭を縦に数回振りながら、
「そうね…、ありがとう愛子ちゃん。」
あらためて基子の骸を前に、
哀しみの光景がしばらくその場に漂い続けていた。
やがて、4人共に座卓に落ち着き、
基子の葬儀の流れに目を通すのだった。
その時に、ドアをノックして部屋の中にお辞儀をする、
係の女性の目に映ったのが、
「あら…このふたり…。」