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支持率98%魔王とやさぐれ女勇者のカオスレイディオ  作者: 仙葉康大
第一章 公開処刑
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クラムチャウダーの味

 鉄格子のはめられた、細長い窓。そこから差し込んできた朝日が頬をくすぐる。


 毛布を体から剥ぎ取り、かすかに目を開ける。


 昨夜は散々だった。あの悪夢のようなラジオ。思い出しただけで頭痛がする。おめおめと生き延びてしまった私は、今日からいったい、何をすればいい?


 朝から牢屋で途方に暮れていると、通路の奥の闇から声がした。


「おはようございます、勇者さん」


 下半身は蜘蛛、上半身は人間の女。蜘蛛女アラクネ族のウソコが現れた。牢屋の鍵を開け、私の前に立つと、


「朝食をお持ちしました」


 そう言って私の手に、木製のマグカップを握らせた。温かい。中に入っているのは白濁職のスープ。


「クラムチャウダーです」


 木のスプーンを差し出して言った。


「要らない」


「自信作です」


 確かに漂ってくる匂いだけでもおいしい。ラジオ中も、ラジオが終わってからも、何も食べていないから空腹だ。いや、ダメだ。食欲なんかに屈しては。万能食のキポの実だってまだ残ってたはずだ。私は寝台の下をまさぐった。ない。キポの実を入れた革袋が、ない。


「ウソコ、お前か?」

「自信作です」

「わかったよ」


 渋々スプーンを受け取り、湯気立ち昇るクラムチャウダーをすくう。息を吹きかけ熱をさまし、すする。


「どうですか?」


 私は答えない。


 もう一口、今度はじゃがいもや人参も一緒にすくい、食べる。


「勇者さんが持っていた野菜、使わせていただきました」


 マグカップに口をつけて具ごとスープを飲む。へこんでいた胃に流し込む。じゃがいも、人参、セロリを噛みしめる。涙が出てくる。


「ラジオ、聞きました」


 ウソコがぽつりと言った。


「来週も聞こうと思います」


 私は飲み干したマグカップに涙を落としながら尋ねた。


「お代わりとか、ないのか?」

「まだまだたくさんありますよ」


 そう言ってウソコが持ってきた大鍋一杯のクラムチャウダーを見て、思わず笑ってしまう。「こんなの、食べきれるかよ」

「作りすぎました。保存魔法をかけておきます。だから、明日も、明後日も、食べてください」

「ったく、しょうがねえな」


 二杯目のクラムチャウダーは少ししょっぱい味がした。


 私には明日がある。


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