クラムチャウダーの味
鉄格子のはめられた、細長い窓。そこから差し込んできた朝日が頬をくすぐる。
毛布を体から剥ぎ取り、かすかに目を開ける。
昨夜は散々だった。あの悪夢のようなラジオ。思い出しただけで頭痛がする。おめおめと生き延びてしまった私は、今日からいったい、何をすればいい?
朝から牢屋で途方に暮れていると、通路の奥の闇から声がした。
「おはようございます、勇者さん」
下半身は蜘蛛、上半身は人間の女。蜘蛛女族のウソコが現れた。牢屋の鍵を開け、私の前に立つと、
「朝食をお持ちしました」
そう言って私の手に、木製のマグカップを握らせた。温かい。中に入っているのは白濁職のスープ。
「クラムチャウダーです」
木のスプーンを差し出して言った。
「要らない」
「自信作です」
確かに漂ってくる匂いだけでもおいしい。ラジオ中も、ラジオが終わってからも、何も食べていないから空腹だ。いや、ダメだ。食欲なんかに屈しては。万能食のキポの実だってまだ残ってたはずだ。私は寝台の下をまさぐった。ない。キポの実を入れた革袋が、ない。
「ウソコ、お前か?」
「自信作です」
「わかったよ」
渋々スプーンを受け取り、湯気立ち昇るクラムチャウダーをすくう。息を吹きかけ熱をさまし、すする。
「どうですか?」
私は答えない。
もう一口、今度はじゃがいもや人参も一緒にすくい、食べる。
「勇者さんが持っていた野菜、使わせていただきました」
マグカップに口をつけて具ごとスープを飲む。へこんでいた胃に流し込む。じゃがいも、人参、セロリを噛みしめる。涙が出てくる。
「ラジオ、聞きました」
ウソコがぽつりと言った。
「来週も聞こうと思います」
私は飲み干したマグカップに涙を落としながら尋ねた。
「お代わりとか、ないのか?」
「まだまだたくさんありますよ」
そう言ってウソコが持ってきた大鍋一杯のクラムチャウダーを見て、思わず笑ってしまう。「こんなの、食べきれるかよ」
「作りすぎました。保存魔法をかけておきます。だから、明日も、明後日も、食べてください」
「ったく、しょうがねえな」
二杯目のクラムチャウダーは少ししょっぱい味がした。
私には明日がある。