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支持率98%魔王とやさぐれ女勇者のカオスレイディオ  作者: 仙葉康大
第四章 ただいま
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去りなさい

「タリナイ様が『キサラ。ついてきなさい』って言って森の奥に消えて行ったんだよ。私は急いであとを追いかけた。荘厳な大樹を背にタリナイ様は立っててさ、私に言うわけ。『両親のあなたに関する記憶は消しておきました』って」


 魔王は怪訝な顔をする。


「『両親だけではありません。一人の例外を除き、大陸にいるすべての生き物の記憶から、勇者キサラ、あなたという存在を抹消しておきました』もちろん私はなんでそんなことをしたか尋ねた。タリナイ様は言ったね。『魔王と仲良くラジオをしている勇者などこの大陸の歴史に存在してはならないからです』って」


 魔王の眉間がゆがむ。


「私はうなずくことしかできなかったよ。実際、事実として魔王とこうしてラジオしてるしな。『去りなさい、キサラ。この大陸にあなたの居場所はありません』そう言われて、早歩きで『人間の森』を出て行ったね。冬晴の空が妙にすがすがしかったわ」

「その大天使を殺せば、貴様の両親に記憶は戻るか?」

「何物騒なこと言ってんだよ。戻らねえよ。大天使様はぬかりないお方だから記憶は完全に消去してるはずだ。いいんだよ、もう。パパもママも幸せそうだったし、それで充分」

「いいや、不充分だな。そのムカつく大天使タリナイとやらの顔面を全力で殴らぬと気がすまぬ」

「なんでてめーが怒ってんだよ」


 私は自嘲気味に乾いた笑いを唇から漏らす。


「しかしだな、貴様、本当にそれでい――」

「聞けよ」


 まだ私のフリートークは終わっていない。


「その日の内に港まで行って、ユーラク大陸行きの船に乗ったんだけどさ、行きと同じくすることがない。眠れもしない。キンヨー大陸の誰も私のことを覚えてないんだって思うと、やけに目が冴えてきてさ。しょうがないから行きと同じように毛布とラジオを借りたわけ」


 魔王は拳を力の限りに握り、震わせている。


「ラジオをつけると、ザザザザザザザって砂嵐みてえな音。大晦日の夜よ。船の中で一人、ずーっとザザザザザって音聞いてたよ、私は」


 相槌も打たない魔王。逆にしゃべりやすい。


「時間の感覚もなくなってきた頃、不意に声が聞こえてさ、ラジオから。『――スマスプレゼントをルナに送ったのだがな』って。てめーの声が聞こえてよ」

「それ、確か録音の回のであろう」

「そう。てめーのフリートークな」


 大晦日の深夜二十五時、年明けてすぐの深夜に、カオスレイディオは放送された。


「ってことは、貴様は船の中で年を越したのか」

「まあな」


 薄暗い船の中で聞いた魔王のフリートーク。内容は、クリスマスにルナさんにプレゼントを贈ったら、微妙な顔をされたというものだった。


「私、思わず笑っちゃったよ。しょーもねえことしゃべってんなあって」

「クリスマスプレゼントを贈ったが、ルナの反応が芳しくなかったのだぞ。大問題であろうが」

「ダンベルもらったら、そりゃ微妙な顔もするわ」

「ルナは体の線が細いからな。時々、心配になるのだ。早死にしないかと」

「だからってダンベル贈るかね、普通」

「あまりにも不評だったので、年末一緒にデパートにショッピングに行ったのだ。どんなに高価な宝石でもなんでも買ってやるつもりだったのだがな、ルナは我と一緒に居るだけで嬉しい楽しいと言ってくれてな、結局、ドーナツをたくさん買って帰って、城の中庭でお互いに食べさせあいっこしたのだよ」

「あ? 何だ? てめー、喧嘩売ってんのか? 人のフリートーク中にのろけ話挟んできやがって」


 魔王は無言で頭を下げると、私に話の続きを促した。


「で、どうなったのだ、貴様は」

「船は元旦の日の昼過ぎぐらいに港についたんだよ、たしか。降りて、行きのときは買えなかった豚まんを買って食べたんだけど、これがうまくてさ。アホみたいにうめえの。涙出るぐらい」

「そうか」


 魔王の声がやけにやさしく聞こえる。


「それから列車で魔都まで移動して、城に帰ってきたのが夕方よ。誰もいない牢屋に入ろうとしたら、後ろから声がしてさ」

「なんと?」

「『おかえり』って」


 魔王が息をのむ。


「ウソコが立っててさ、私はびっくりしたね。なんでいるんだよ、故郷の村に帰省したんじゃなかったのかよって言ったら、あいつ、なんて答えたと思う? 『勇者様のことですから、帰省してもご家族とうまくいかず、キレてすぐこちらに帰ってくるのではないかと思いまして』とさ。ひでえ話だろ。『いや、余計な気を回してんじゃねえよ。お前、今からもっかい帰省しろ。有休もとって一週間ぐらい帰ってくんな』って私が言ったら、あいつ、『心配いりません。家族も来てますから、ここに』って言うんだよ。そしたらカサカサっていう蜘蛛足の移動する音が聞こえて、もう何十人ものアラクネ族がやってきてさ、子供から老いてる奴までウソコの親戚一同、私に挨拶かましてきて」

「ガハハハ。アラクネ族は兄弟姉妹が多いからな」

「おかげで正月はウソコの親戚の子たちの面倒をずっと見るハメになって、今までで一番忙しい正月だったわ」


 一息つく。


「三が日も終わって、ウソコの親戚もみんな帰って、にぎやかさのすっかり消えた牢屋で、ふと気づいたんだけどさ、私まだ言ってなくてさ」

「何をだ?」

「夕食作ってるウソコの背中に向かって言ったね。『ただいま』って」


 ジングルが鳴る。

 これで私のフリートークは終わりだ。

 CMの間、誰も何も話さなかった。


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