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支持率98%魔王とやさぐれ女勇者のカオスレイディオ  作者: 仙葉康大
第四章 ただいま
35/50

豚まん

 年明け一発目の放送に臨むべく、収録室に入る。


 すでに魔王もスタッフも勢ぞろいしている。


「あけましておめでとー」


 アパーが明るく声をかけてくる。


「おめでと」


 とは言っても、もう一月七日だ。正月気分も抜けてきている。


 いつも通り打ち合わせなしで本番が始まる。


 オープニングトークは新年の抱負とか訊いてお茶を濁す。魔王はすげえ答えづらそうにしていた。新年の抱負とかねえよな、別に。


 タイトルコール後のCM中に私は魔王に言った。


「先に言っとくけど今日のフリートーク、面白い話じゃないかもしれねえから」

「かまわん」

「悪いんだけど、私のフリートークで変な空気になったら、てめえのフリートークで盛り返してくれ」

「任せておけ。貴様のケツなどいくらでも拭いてやる」

「その言い方は腹立つ。あとキモいしセクハラだからな、それ」


 そんなことを言いあってるうちにCMが明けた。


「えー、結論から言っちゃうと、勇者、帰省しました」

「ん? そうなのか?」

「ん? そうなのか、じゃねえんだよ。魔王ならそれぐらい把握しとけ」

「いや、すまんな。どうやって向こうの大陸へ渡ったのだ? フェリーか?」

「ちょっと待って。まだ移動手段云々の話をする段階じゃない」

「ほう」

「そもそも私は帰省する気とかなかったんだよ。キンヨー大陸に戻ったところで、魔王に負けた勇者のことを誰が迎えるって話だ」

「そうだな」

「あ? お前、喧嘩売ってんのか?」

「いや、売ってない。断じて売ってない」


 舌打ちして話を続ける。


「なんで帰省する気になったかっつーと、ウソコのせいなんだよ。あいつ、私が帰省しないなら、自分も帰省しないで魔王城に残るとか言い出しやがってさ。帰省しろっつってんのに、しねえの。ざけやがって」

「今日は一段とやさぐれているじゃあないか、勇者。さては帰省先であまりいい思いをしていないな」

「お前、人のトーク先回りしてんじゃねえよ。殺すぞ」

「すまん」

「えーっと、どこまで話したっけ。そうだ。ウソコが残るって言うから、私はもう仕方なく、ウソコを帰省させるために帰省することにしたんだよ。聖剣と財布だけ持って、ジャージの上にペガサスの毛皮のコート着て、大陸の西端の港へ向かったわけ」

「うむ」

「港は年末だからか、魔族や人でごった返しててさ。屋台とかもたくさん出てたな。クラーケン焼いたのとか、人魚の涙のジュースとか売られてて。あと、豚まん。普通に豚まんが売ってやがんの。しかも港周辺はもう寒風がびゅうびゅう吹いてるから寒い寒い。私もう真っ先に豚まん買いに行ったね。でも列ができちゃっててさ、並んでるうちに大陸間フェリーがまもなく出港しますってアナウンスが聞こえて、もう急いでフェリーに乗り込んだのよ」

「豚まんは?」

「買えなかった。まあ、それは別にいいんだけどさ。こっちだって豚まん買いにきたわけじゃねえんだから。帰省するためにフェリーに乗ろうと思って港に来たんだから、フェリーに乗れて万々歳だよ」

「とてもじゃないが、そんなふうには見えんぞ。後悔しているな、貴様」

「いや、これ、豚まん買えなかったっていうフリートークじゃないのよ。それに、後悔ならもっともっとでかい後悔たくさんしてきてるから、豚まん買えなかったぐらい何ともないね。ノーダメージ」


 少しの間を入れて仕切りなおす。


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