明日の朝ご飯、何がいいですか?
そして、約束の土曜の夜が来た。
「勇者さん、お客様です」
ウソコが連れてきた客はゾンビだった。血みどろのシャツを着ていて、下はダメージジーンズという恰好だった。顔の右目回りには青あざが、左頬には切り傷がある。
「こんにちはー、夜分遅くにすみませーん」
やけに腰の低いゾンビだ。
「私、ラジオでディレクターをさせてもらってます、ゾンビ族のスターツと言います。よろしくお願いします」
「はあ」
ディレクターって何だよ。そんな言葉、聞いたことねえよ。
「じゃあさっそく何ですか、魔王様もお待ちですので、ついてきてもらってもいいですか?」
どうやらこのゾンビ、私のことを呼びに来た魔王の部下らしい。
「どこへでも連れてけよ」
こっちは早くこの世界からおさらばしたくてたまらないんだ。
牢屋を出た私が「世話になったな」と言ってウソコの横を通り抜けたそのときだった。
「あの」
ウソコが口を開いた。
「明日の朝ご飯、何がいいですか?」
私は力なく笑った。
「これから公開処刑される私にそんなこと聞くなよ」
何か言いたげに口を半開きにするウソコ。けど、私は背を向け、ゾンビについて行った。もう声はかからなかった。