器の小さい火竜
ふと、砂浜に巨大な影が落ちた。
見上げると、太陽を食らうかのごとくに身をひるがえし、炎をまといし竜が落ちて来る。
死んだ。
ウソコが大量の糸を吐き、壁を作ったが、そんなものは燃え尽きてしまう。火竜の超ど級の着地が砂浜の砂を舞い上げるとともに、灼熱の世界を顕現させる。
「ヴォンさん、人、人。今日は人いるから気つかってよ」
海竜が声を張り上げる。
「え? 何? 人ってこんぐらいで死ぬの? へー。知らなかったわ。ごめんごめん。マジ次から気を付けるから。あのー、生きてますかー?」
あー、そういうタイプかよ。もっとストレートに激怒する暴君タイプだと思ってたけど、違うな、こいつ。遠回しに人間をこけにするタイプの竜だ。
咳をして砂を吐き出す。
「あ、そこにいたんだ」
火竜の真っ赤な頭部がゆっくりと迫る。
「どうも。火竜のヴォンテールです。先日は宣戦布告してくれてありがとうございました。こっちも全力であなた方のラジオをね、叩き潰したいと思っているので、どうぞよろしく」
こっちも何か言い返さねーと。このクソ竜に。
「大陸一のラジオ番組のパーソナリティのくせに、思ってたより小せーんだな、器」
「ん? あれ? 聞き間違いかな?」
あくまで冷静な火竜の後ろで、海竜は猛烈に首を横に振っている。でも、私は止まらない。
「今日のラジオはマジでやってやるから、てめーら覚悟しとけよ」
「ハハ、面白いこと言うね。マジじゃないラジオとかあるんだ」
「っ」
言葉に詰まる私をフォローするように海竜が言う。
「ヴォンさん、そういうところっすよ。後輩の竜、みーんな言ってますよ。ヴォンさんは底意地が悪いって」
「みーんなって誰よ。言ってみ。言った順番に殺してってやるから」
「またそーいうこと言う」
地平線の彼方に沈みかけた夕日が照らす砂浜というムードあるシチュエーションのはずなのに、全然ときめかない。むしろ本番が近づくにつれて場はいっそう殺伐としてくる。
「本番五秒前、四、三、二」
手でキューを出すスタッフ。
海から顔を出している海竜と砂浜にあぐらをかいて座っている火竜が、機械へ向かってタイトルコールする。
「「火竜と海竜のハリケーンボルケーノ」」