エレメンタルズ
我に返り、今日の自分の役割を思い出す。ライライに話を振らないと。
「ライライはルナさんのこと好きか?」
「好きー」
「どこらへんが?」
「ウチの話ちゃんと聞いてくれるとこ」
「へー。他には?」
「シフォンケーキとかチーズケーキとかめっちゃおいしいお菓子くれる」
「ルナさんのお菓子うまいよな」
「えっと、コンサートのあととか、いっぱい褒めてくれる」
「今日ライライめっちゃしゃべるじゃん」
「ほんと、どうしたの?」
チッチとミミは驚愕している。
「わ、私が話ふってもあんまり話してくれないのに」
なぜか落ち込むシルシー。
「勇者さん、どうやったんですか?」
「いや、別に。単に質問しただけだけど」
「私だってライライに毎週質問してます。でも答えてくれないんです」
「って言ってるけど、どうなんだ? ライライ」
「だってシルシー、進行に必死やから、なんか気の利いたこと言って負担減らしてあげなって思うねんけど、ウチ、そんな瞬発力ないから、考えてるうちにけっこう時間経っちゃってふへへへへ」
「そうそう、シルシーの進行、真剣すぎて怖いときあるもんな」
「まあ、そうね。私は別に気にせず自分の言いたいことしゃべるけど」
「そうだったんだ。って、そうならそうと言ってよっ」
「きゃー、怒ったー」
ライライがおおはしゃぎしている。その間にもライライの声がたくさん聴けて嬉しいというメールがじゃんじゃん届いている。これから「四精霊のハッピーラジオ」はもっと人気が出るだろう。
不意に曲がかかった。
「えー、もうエンディングー」
チッチが残念そうに言う。
「もっと話したい話したい」
「ダダをこねないでよ、みっともない」
「キサラさん、今日はお越しくださいましてありがとうございました。どうでした? 私たちのラジオ」
「普段は殺伐としたラジオばっかりやってる身からすると、このラジオはもうハッピーオーラがあふれすぎててやばいね。なんか単純にみんなのファンになっちゃったよ」
「やった。なあ、シルシー、キサラさんも呼ぼうよ、来月のコンサート」
「ぜひ十二月のクリスマスコンサートにもいらしてください。チケットをお送りします」
「さっきライライの話にコンサートって単語が出たときから気になってはいたんだけど、みんなってなんか音楽活動とかしてるの?」
「「「「え?」」」」
全員、絶句した。
やばい。私、何かおかしなこと言っちゃったか。
「マジで? キサラさん、私たちのこと知らないの? この曲も知らない? 今、バックで流れてる曲」
「あ、これは流石に知ってる。エレメンタルズっていう人気バンドの――」
雷に打たれたように思い当たった。エレメンタルの意味は、四大元素の霊、すなわち、それはそのまま、目の前の四精霊を意味していて。いや、でも、まさか。
「嘘、だろ」
「私たち」
シルシーが言うと、そのあとにつづいて四精霊が声を重ねる。
「「「「エレメンタルズです」」」」
音が絞られていき、放送終了。でも、私の胸を打つ激しい動悸は止まらない。
「いや、だって、街とかでも全然見かけなかったぜ、みんなの写真とかポスターとか」
「そりゃあそうだよ。私たち、メディアへの露出はラジオ以外一切してないもん」
「なんでだよ」
「だって音楽性で勝負したいじゃん」
「生意気言ってんじゃねーよ」
「勇者様、そろそろ下山しないとまずいです」
「いや、ちょっとウソコ、それはないだろ。今夜はここでゆっくりして行こうぜ」
四精霊もうなずく。
「ぜひ泊まっていってください」
「まことにありがたいのですが、それはできません」
「夜の山は危険ですよ?」
「それでも、どうしても、零時発の寝台特急に乗らないとまずいのです。スケジュール的に」
「いや、もうあとは魔王城に帰るだけだろ。そんな急がなくても」
「勇者さん、忘れたふりをしてもダメです。まだあと一件、ゲスト出演の仕事が残っています」
「あ、火竜の」
チッチが言い、他の四精霊が同情のまなざしを私へと向ける。
「ウソコ、火竜のラジオへの出演、なんとかキャンセルできないかな?」
「私はまだ死にたくありません」
「だよな」
ああ、今日のラジオは楽しかったなという気持ちを胸に残して、私がさよならを告げようとすると、四精霊は下山のガイドを買って出てくれた。
「安全に下りれるよう、案内します」
「助かる」
神殿を出ると、外は夜の底に沈もうとしていた。
チッチの炎とライライの雷、それらの明かりを頼りにして、急こう配の険しい山道を降りていく。休憩時にはミミに水を出してもらい、のどをうるおす。超ハイペースで山を下りきり、現在時刻は二十三時半。
駅まで走れば何とか間に合うか。いや、厳しいな。
「私たちはここまでです。行ってください、勇者さん、ウソコさん。風が後押ししますから」
「ありがとな、みんな」
「またねー」
ライライがひときわ大きな声で叫んだ。
シルシーの言った通り、駅に着くまで、常に背中を押すように追い風が吹いていた。
切符も買わないで改札を飛び越え、ホームに泊まっている寝台特急に滑り込む。
汽笛がうなり、列車は、大陸の南方へ向けて車輪を回し始めた。