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支持率98%魔王とやさぐれ女勇者のカオスレイディオ  作者: 仙葉康大
第三章 Who is the most brilliant Radio Star?
24/50

神殿まで登山

 足が痛い。


「勇者様、ペース落ちてます。今日中に四合目までは登っておかないと、明日がきつくなるのでがんばってください」

「くそ。なんで収録スタジオが山頂なんかにあるんだよ」


 山道を彩る大自然に向かって毒づく。


 ミーティアと別れ、汽車で王都まで戻った私たちは、すぐに次の目的地、四精霊のハッピーラジオの収録スタジオに向かって歩き始めた。平面的な二次元の地図上では、そのスタジオは王都のすぐそばにある。しかし、実際は、標高三千七百メートルを超える山の頂にあるのだった。かくして私とウソコは絶賛登山中なわけだが、もう日没が近い。


「勇者さん、あと少しです」

「お前、ずっとそればっか言ってるじゃねーか」


 というか、勇者の私でもこんなにきついのに、なんでアラクネ族のウソコは息一つ切らしてねーんだよ。


「体力あるな、お前」

「魔王城の首席使用人ですので」


 テキトーにしゃべりながら、だらだらと歩き続ける。


 太陽が地平線の彼方に消え、大陸が夜の支配下に入ったそのとき、視界の先に山小屋の明かりが見えた。あそこが今晩の宿、四合目の山小屋だ。


 残っているなけなしの体力を使って歩く、歩く、歩く。そうしてようやくたどり着いた山小屋は無人だった。中に誰もいない。食事を取るための部屋と寝るための部屋の二つあるだけ。


「風呂もシャワーもねえのか。しゃべえな」

「山小屋なんてそんなものですよ」


 ああ、牢屋が恋しい。


 ウソコが火焔魔法でやかんにお湯をわかし、そのお湯を乾燥麺が入った容器へ注ぐ。見たことのない料理だ。物珍しそうに見ていると、ウソコが言った。


「カップ麺です。お湯を注いで三分で出来上がりです」

「三分で? すげえな。やっぱこっちの大陸は違うな、何もかも。技術も科学もめちゃくちゃ発達してるし、娯楽も盛りだくさん」

「今はそうですが、かつては違いました」

「そうなのか?」

「はい。先代の魔王の治世はそれはもうひどかったらしいですから。飢えて死ぬか、強奪して生き残るか。高い税金を払えるのは一部の貴族のみ。税金の滞納が続けば、採掘場や菜園へ送られ、強制労働。奴隷がいて、種族差別があり、男女の扱いは不平等。あの時代に生まれていたらと思うと、ぞっとします」


 ウソコはそう言って、鞄から小型のラジオ受信機を取り出し、つまみをいじった。ノイズの入り混じった声が、調整によってだんだんクリアになっていく。


「――もういいよ。それではここで一曲、お送りいたしましょう。いま大陸で最も人気のバンド、エレメンタルズで『ドシラソミレド』」


 ポップなミュージックがラジオから流れ、山小屋のムードががらりと変わる。間奏のエレキギターのソロは雷のように鋭く、曲が終わるころにはカップ麺ができあがっていた。伸びた麺をすする。うまい。今、この大陸に飢えて苦しんでいる人はいないとウソコは言う。あの忌々しい魔王ジールドが支持されている理由がようやくわかりかけてきた。


 翌朝、日の出とともに山小屋を発ち、ただひたすらに歩いて、なんとか山頂にたどり着くことができた。


 時刻は十七時半過ぎ。「四精霊のハッピーラジオ」の放送まで一時間を切っている。


 山頂からの景色は壮観で、魔都とその先にある魔王城を一望できる。けだるそうな夕闇に飲み込まれていく魔王城では、今日も魔王がバカなことをしでかしているのだろう。


「勇者さん、スタジオはこっちです」


 ウソコが指さした先には神殿の入り口があった。山頂に埋もれ、山頂と一体となっているその神殿こそ「四精霊のハッピーラジオ」の収録スタジオなのだ。


「さあ、行きましょう」

「先に行っててくれ。ちょっと休憩してから行くわ」


 その場に腰を下ろし、景色を眺めてぼーっとする。体が疲れていて、何もしゃべる気にならねえ。こんな状態でラジオで話せるかな。


「何してるん?」


 舌ったたらずな声がした。見ると小さな人型の精霊が透明な羽を高速で動かし、宙に浮かんでいた。体にはところどころ虎の毛皮のようなものが生えている。


「いや、別に何もしてないけど」

「えへへ。そうなんや」


 精霊はそう言うと、私の肩に座り、ささやいた。


「もしかして勇者さん?」


 うなずくと、精霊は顔を手で隠し、なぜか照れた様子でこちらをちらちらと見て話す。


「ここまで来るの、大変やったやろ?」

「こんなでけー山はじめて登ったよ」

「えへへへ、へへ」


 ヘラヘラしてるけど、とにかくかわいい。


「他の精霊たちは?」

「みんなは、神殿の中でスタッフさんと打ち合わせ中でーす」

「お前はいいのか? 打ち合わせ」

「ウチ、あんまラジオ得意やないねん」

「そうなのか?」

「何しゃべったらいいかわからへん。緊張もするし。でも、みんなの話聞くだけでも楽しいからええかなって」

「まあ確かに、聞くだけでもいいよな」


 別に自分がしゃべらなくても、面白いラジオは聞いてるだけでも面白い。いや、やっぱパーソナリティはしゃべらねーとダメか。


 なんとなくだけど自分のすべきことが見えてきて、私は立ちあがった。


「今日はよろしく。えーっと、名前、まだ聞いてなかったな、そう言えば」

「へへ」

「いや、名前教えてくれる?」

「雷の精霊ライライです」


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