勇者の忘れもの
帰りの汽車に乗り、発進を待つまでの間、手持ち無沙汰になった私はウソコに昨夜のことを聞いてみた。
「昨日ラジオが終わったあと、ミーティアとガーナに何言ってたんだ?」
「サインをお願いしました。ほら、見てください」
ウソコが取り出した二枚の色紙には、それぞれミーティアとガーナのサインが書かれてあった。
「サインなんてもらってどうするんだよ」
「部屋に飾るんですよ」
「ていうかお前、あいつらのファンだったの?」
「はい。『賞金女王ミーティアのマッハレディオ』は毎週欠かさず聞いてます」
やっぱ人気あるんだな。聴取率の上位三組に入るって思ってたより難しいのかもしれない。
「あ」
ウソコが突然、変な声を出した。
「どうした?」
「忘れ物をしてしまいました」
「何を?」
「大したものではありません」
「まあ、それならいいか」
汽車が汽笛を空へ高く鳴らした。車窓の景色がゆっくりと流れていく。
ふと、腰に心もとなさを感じた。
「ウソコ、預けてた聖剣、返してくれねーか。なんか腰が落ち着かなくて」
「それは無理です」
「は? なんでだよ?」
沈黙するウソコ。嫌な予感がする。
「お前、まさか、大したものではない忘れ物って」
「はい、聖剣のことです」
無表情、無感情にそう言ってのけるウソコの胸倉をつかみ、ぶん回す。
「ざけんなよ。勇者にとって聖剣以上に大切なものなんてこの世にねーんだよ。どうすんだよ、汽車もう出発しちまってるし。あ、次の駅で折り返せばいいのか」
「そんな余分な旅費ありません」
「なんでだよ。旅費は普通、余分に持っとくもんだろが」
「あとで郵送してもらえばいいのでは?」
「郵送なんてダメに決まってるだろ。途中で盗まれたらどうすんだよ。大体、色紙にサインなんかもらってるから、そんなドジ踏むんだよっ」
「でも仕方ないわよね。私のサインには聖剣以上の価値があるんだから」
あり得ない声が車窓の外から聞こえた。
「ほら、バカ勇者、忘れものよ」
箒に乗ったミーティアが現れ、ミーティアの肩に乗っていたガーナがその長い舌を使って、車内へ向かってものすごいスピードで何かを投げた。それこそ勇者の証。床に突き刺さった聖剣を引き抜き、私は口を開く。それを制するようにミーティアが言う。
「お礼なんて要らないわ。その代わり、今度ゲストで呼んだとき、ギャラ少なめにするから。いいわね?」
今度。そうか。またいつか呼んでもらえるのか。
顔をほころばせて私は言う。
「わかった。そのときはまたよろしく頼む」
ミーティアが舌を出し、目をつむった。次の瞬間、トンネルの轟音と暗闇が一挙に車窓を埋め尽くした。




