ゲスト出演の依頼が三件ほど
魔王による宣戦布告から一夜が明けていた。日曜の午後の平和なひととき、私は獄中で、カカオ濃度の高いチョコをつまみながら、ウソコとチェスを打っていた。そこへスターツディレクターが青い顔をしてやって来た。
「勇者さんにゲスト出演の依頼が三件ほど来ています」
「私をゲストに呼びたいって、いったいどこの番組すか?」
「『賞金女王ミーティアのマッハレディオ』、『四精霊のハッピーラジオ』、『火竜と海竜のハリケーンボルケーノ』以上の三番組がぜひゲストに来てほしいと」
年間聴取率の上位三組がそろいもそろって私をゲストに呼んでんじゃねえよ。くそ。これもぜんぶ、魔王のバカが宣戦布告なんてするからだ。
「私、行く気ないんで。特に最後の『ハリケーンボルケーノ』とかいう番組には絶対出ないんで」
ハリケーンボルケーノの火竜は魔王の宣戦布告に激怒し、己の住処である火山を盛大に噴火させた。そんな奴がパーソナリティをやってるラジオに出演? 命がいくつあっても足りない。
「ちなみに出演を拒否した場合は次の『カオスレイディオ』放送中に殴り込みをかけるって言ってきてます」
「あれ? それって詰んでません? 私」
「チェックメイト」
ウソコの声が盤上に響いた。キングに逃げ場なし。見事に詰んでいる。
「それであのー、言いにくいんですけど、私も他に色々仕事がありまして、一緒について行くことはできないと言いますか」
「おい、スターツさんよお、まさか私に一人で行けって言ってんのか?」
「いえいえ、ウチの大事なパーソナリティを一人で敵地へ行かすわけないじゃないですか。ちゃんとマネージャーをつけます。というわけで、ウソコさん」
「はい、何でしょう?」
「勇者さんのこと、頼みますね」
ウソコは一、二秒固まり、それから、うやうやしくお辞儀した。
「お任せください」
「ウソコ。お前、嫌じゃないのか?」
首を横に振るとウソコは、スターツに旅費はどのぐらい出るのかと尋ね、その後、一言言い添えた。
「色紙を買うお金も旅費に加算しておいてください。五枚、いや、八枚ほど買います」
「それぐらいなら問題なく出せると思いますけど、色紙なんて何に使うんですか?」
「秘密です」
スターツは深くは詮索せず、旅程の説明に移った。
出発は明日の十時。移動手段は主に汽車だという。
「瞬間移動魔法とかで飛んでいけねーのかよ」
私が文句を言うと、スターツは苦笑した。
「すみません。瞬間移動魔法には目印の問題もからんでくるので、今回は汽車でお願いします」
「はあ? アンカー?」
「そんなことより旅費はどのぐらい出るのですか?」
ウソコが旅費の増額交渉を始めたあたりで、私はもうどうでもよくなった。なんといったって、旅の最後には、火竜が待ち受けているのだ。
ほんと、ろくなことねーな、私の人生。