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支持率98%魔王とやさぐれ女勇者のカオスレイディオ  作者: 仙葉康大
第二章 生き様フリートーク
16/50

宣戦布告

「こ、これは」


 思わず息をのむ。魔王が突き出したそれは、まぎれもない聖剣。しかも折れていない。ちゃんと切っ先まである。ただ、一つ気になるのは――。


「おい、何だよ、これは」


 刀身の真ん中を指さして言う。


「聖剣に何巻いた、てめー」

「ガムテープだが? 結局これが一番くっつくと思ってな。あ、安心しろ。ガムテープで巻く前にちゃんと接合部には液体糊を塗っておいたからな。ちなみに糊とガムテは、魔都の商店街にある老舗の文房具屋で買ったものだから、品質は保証されているぞ」

「品質とか、そういう問題じゃねーんだよ」


 私は激しい歯ぎしりとともに言葉を発する。


「ガムテープ巻いた剣で戦う勇者がどこにいるんだよ」

「ここにおるではないか」


 頭の中の何かがぷっちんとキレた。私は魔王の手から聖剣を奪い、机を足で踏み、斬りかかった。


「そんなものか? 勇者よ」


 魔王の肌は斬れない。


「てめーだけはぜってーぶっ殺す」


 斬るのは諦め、ただがむしゃらに剣で殴打する。蹴るし、殴りもする。けれど、魔王の笑みは崩れない。むしろさらに喜色が増してきている。


「やはり我は間違っていなかったぞ。見よ、勇者、聖剣を」


 私はハッとした。

 聖剣は、折れていなかった。


「どうだ、すごいであろう。ガムテープは」


 私はうなる。


「ガハハハハハハハハハハハハ。見たか、これが我の実力よ」

「いや、ガムテの実力だろ」


 私の声に重なるようにジングルが鳴り、魔王のフリートーク終了。


 しかし疲れた。このラジオの放送時間は残り三十分弱。台本を見る。残すところはコーナー紹介とエンディングトークのみだ。


 CM中、私は尋ねた。


「なあ、このラジオって月一だっけ?」

「何を寝ぼけたことを言っておる。毎週やるに決まっておろう。来週も再来週も『魔王と勇者のカオスレイディオ』は放送するぞ」

「やっぱ私、無理だわ。てめーの相手するの、すげー疲れるし、フリートークだって今回はできたけど、次もできるかはわからねーし」

「CM開けるよー」


 スライムのアパーの声がブース内に響いた。タイトルコールが流れ、ルナさんが何枚かの紙を魔王にわたした。


「リスナーから感想メールが来ておるので、紹介するぞ。ラジオネーム、ノー・ライフ・キング。『勇者さんの暮らしぶりやウソコさんとの仲の良さが伝わってくるフリートーク、最高でした。ラジオ初心者とは思えません。一方、魔王の話術はまったく進歩しませんね。何年ラジオをやっているのですか、あなたは。いい加減もう少しフリートークの腕を上げてください』何だとっ。余計なお世話だっ」

「先週から思ってたけど、てめーのこと嫌いなリスナー多いよな」

「次だ、次。ラジオネーム、ゴースト・ロード。『キサラサン、カーテンデスガ、ゴースト・タウンデウラレテイルカーテンガオススメ』。ええい、勇者へのメッセージばかりではないか。我へのメールは来ていないのか?」


 そのタイミングで、ルナさんが私にメールを手渡した。読む。


「おい、てめーにメール来てるぞ。ラジオネーム、ゴブリン・カイザー。『魔王、愚者の実はまだ残っているか? あれはお前にはもったいない果実だから、もし愚者の実が一つでも残っているのなら、ただちに例の魔女のもとへ送り返せ。あと、来週から魔王のフリートークはつぶして、勇者キサラのフリートークの時間を倍にしろ』ってさ」

「どいつもこいつもいったい何なのだ。二つもらった愚者の実の内、一個はまだ未使用だが、これは我がもらったものだ。我の好きに使わせてもらう。あと、来週も我はフリートークをするからな、絶対」


 ルナさんが最後のメールを読み上げる。


「ラジオネーム、スカル・エンペラー。『ところでこのラジオ、コーナーはないのかのう? 大陸中のハガキ職人どもが舌なめずりしてコーナーを待っておるのだが』」

「心配するな。ちゃんとコーナーはある。ルナ」

「はい、紹介しますね。コーナーは二つあります。一つは復活の呪文のコーナー。このコーナーではやさぐれ勇者のキサラさんを元気づけるメールを募集します。見事、キサラさんを元気づけることができた方にはキサラさんのサイン色紙をプレゼント」

「聞いてねーんだけど」

「二つあるコーナーのもうひとつは、2%のコーナーです。このコーナーでは、魔王を支持していない2%の大陸民の声を募集します。あんまり過激な罵詈雑言は魔王が落ち込んでしまうので、みなさん、お手柔らかにお願いしますね。あとで慰めるの、私なんですからね」


 不意に音楽がかかった。パイプオルガンと重量級悪魔の低い歌声。


 やっとエンディングだ。


「ここで重大なお知らせがある。心して聞け」


 私は眉をしかめる。お知らせがあるなんて台本には書いていない。


「七年前、我が初めてラジオをしたとき、この大陸にはまだ他のラジオ番組はなかった。我が唯一のラジオパーソナリティであった。しかし今や百を超えるラジオ番組が毎昼毎夜、魔力で作った電波に乗って民のもとに届けられておる。それはまことによいことだ。しかし一方で、ここ数年の聴取率ランキングに我は全く納得していない」

「てめーの納得なんか知るかよ」


 魔王はゆっくりとしたテンポで返す。


「勇者よ、おかしいとは思わないか。なぜ我のラジオが四位なのだ。我は支持率98%の男であるぞ。本来であれば、聴取率でも圧倒的勝利を収めるのが道理のはず」

「うるせーバカ。上位三組の方がおもしれーラジオやってんだろ。ごたごたぬかしやがって、結局てめーは何が言いたいんだよ」

「魔王ジールドの名においてここに、聴取率一位、二位、三位の番組に対し、宣戦布告する」


 私は呆れてしまった。


「ここ数年、聴取率で負け続けてるんだろ。急に勝てるようになったりしないだろ」

「だが先週は勝った。『魔王ジールドのダークラジオ』はぶっちぎりで聴取率一位。なぜかわかるか?」


 私は黙る。答えがわからなかったからじゃない。むしろその逆だ。


「今日のラジオではっきりした。貴様のラジオパーソナリティとしての資質は本物である。だからこその宣戦布告。我と貴様がタッグを組めば、もはや無敵よ。今頃、火竜のやつなんかきっと恐怖でガタガタと震えておるぞ」


 魔王がそう言った直後、ブースの外でスターツが突然飛び上がった。血相を変えて機械のモニターを見つめている。


「なんだ? なんかディレクターがめっちゃ慌ててるんだけど、なんかあったのか?」

「ガハハハハハ。おおかた、このラジオの聴取率が100%だったとか、そんなところであろう」

「違いますよっ。火竜がキレたんです」


 顔面蒼白のまま駆け込んできたスターツが叫ぶ。私のマイクを奪い、手元の紙を読み上げる。


「こ、ここで災害情報です。ついさっき、深夜二時五十四分、ユーラク大陸南方のダクト火山が噴火しました。近隣住民の方は、自宅の防災魔法が発動されていることをご確認のうえ、魔王軍災害対策班の到着をお待ちください。繰り返します――」


 私は呆然とする。


「まったく、これだから癇癪かんしゃく持ちは困る」


 そう呟いた魔王の頬を冷やそうな汗がつたうのを、私は見逃さなかった。




 その週の聴取率ランキングで「魔王と勇者のカオスレイディオ」はまたもや一位に輝いた。二位は「火竜と海竜のハリケーンボルケーノ」だった。


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