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支持率98%魔王とやさぐれ女勇者のカオスレイディオ  作者: 仙葉康大
第二章 生き様フリートーク
13/50

週間聴取率ランキング

「よく来たな、勇者キサラよ」


 魔王の間の隅にある収録スタジオに足を踏み入れた私を待ち構えていたのは、黒いタンクトップ姿の魔王だった。今日も筋肉が隆々と盛り上がっている。一方、私の服装は紫色のジャージである。服が欲しいと思ってウソコに金をわたしたら、城から一番近くの商店街のブティックで、このジャージ上下セットを五着も買ってきやがった。いらねーよ、そんなに。でも着心地は抜群。


「今宵は我と貴様の番組が始まる記念すべき夜、どうだ、一杯飲むか?」


 そう言って突き出してきたボトルをのぞき込むと、白濁色の液体が見える。


「何だよ、これ」

「プロテインだ。うまいぞ」

「まずいよ」


 収録機器の上をなめるように這いずりまわっていたスライムのアパーがこちらを向いて言った。


「余計なことを言うでない、アパー」

「いや、サンキューな、アパー」


 そんなことを言ってると、ルナさんがやってきて、一枚の紙をくれた。


「こんばんは、キサラさん。今日の進行表です」


 オープニング、勇者フリートーク、魔王フリートーク、コーナー紹介、エンディングという流れのようだ。


 ディレクターのスターツと簡単な打ち合わせをしている内に時間が来た。


 ガラスで仕切られた小部屋、収録ブースに入り、マイクの前に腰を下ろす。正面には魔王、その隣には魔王の妻。つくづく思う。勇者が魔王とラジオなんて馬鹿げてるにもほどがある。


「5、4、3、2」


 スターツ・ディレクターの合図で、アパーが曲を流す。金管楽器の音色が夜の静寂に溶けていく。


「こんばんは、勇者キサラです」

「土曜の夜、魔王ジールド」

「えー、先週ね、このくそ魔王がいきなり私との新番組を始めるなんて言い出しやがって、その結果、私は今こうしてしゃべってるわけだけど」

「そうだな。感謝するのだぞ」

「いや、恨みしかないのよ、てめーには。勇者が魔王と仲良くラジオだあ? 言っとくけどこんな屈辱ねーからな。しあもお前、先週の放送で私の聖剣折っただろ」

「それは正直申し訳ない」


 私は舌打ちする。印象悪いけど別にいいや。好かれるためにラジオやってんじゃねえんだから。


「というか、うーん、よかったのか? この番組始まるからって自分の番組終わらせたじゃん。なんて言ったっけ」

「『魔王ジールドのダークラジオ』だな」

「そうそれ。つかなんだ、ダークラジオって。だせえな」

「ガハハハハハハハ」

「笑ってんじゃねえ。ぶっ飛ばすぞ。こっちは真剣な話してんのよ。こんなさ、即席コンビでラジオ始めるより、普通にダークラジオ続けた方がよかったんじゃない?」

「いやー、ぶっちゃっけ、行き詰まりを感じておったからな」

「でもお前の支持率98%なんだろ。超人気番組だったんじゃないの?」

「いやいやいや、我のことは支持していても、ラジオはあまり面白くないって意見も多かったからな。あと単純に他のライバル番組が強すぎるのだ」


 ルナさんが紙の資料をくれた。見ると、過去の週間聴取率ランキングのデータが載ってある。


「週間聴取率ランキング、先々週は四位ってあるけど」

「まあ、そこが定位置だな、ダークラジオの」

「三位以上になったことはねーのか?」

「滅多にないな。だが、先週の放送は一位だったぞ」

「私がゲストで出た回か」

「聴取率46%で堂々の一位。誇っていいぞ、勇者よ。貴様のおかげだ」

「いや、真正面から褒められると私も受け身とれないよ」

「ところで勇者よ、貴様、フリートークはちゃんと考えてきたのか?」


 私は口をつぐむ。放送事故になりかけたところで、魔王が声を発する。


「まさかノープランか?」

「うっせーな。だってこっちは今日のラジオ出る気なかったし」

「まったく。ドタキャンする気だったのか、貴様は。仕方ないから我が先にフリートークをしてやろう。その間に考えるがよい」

「あ? 別にフリートークぐらいできるし」

「強気なのはいいが、貴様、ラジオはまだ二回目であろう。何の準備もせずにウケるほどフリートークは甘くないのだぞ。我がフリートークで何度大滑りしたか教えてやろうか。その回数、優に百回以上。どうだ? すごいだろう」

「威張ってんじゃねーよ、バカ。フリートークが何たるかがわかってねーからそんなに大滑りするんだろ」

「ほう、ならば貴様は分かっているというのか?」

「分かってるね」


 この一週間、スターツやアパーやルナさんから聞いた話のワンシーン、ワンシーンが、フラッシュバックして脳内にきらめく。


「フリートークってのはな、生き様なんだよ」


 私がそう言うと、魔王は不敵な笑みを浮かべ、両手を広げた。


「いいだろう。ならば聞かせてもらおうではないか。貴様の生き様フリートークを」


 そろそろタイトルコールだな。魔王もそう感じていたようで、下卑た笑みを浮かべながら口を開いた。


「魔王と」

「勇者の」

「「カオスレイディオ」」


 一息ついて私は協賛企業スポンサーを読み上げる。


「――以上各社の協賛で魔都ゼヒラの魔王城をキーステーションにユーラク大陸全土にお送りします」


 ジングルが流れ、スポンサーのCMが流れ始める。息を吐く。オープニングトークはそれなりにできた気がする。しかし、問題はここからだ。


「そう青い顔をするな。いざとなったら我が助け舟を出してやる」

「てめーの泥船なんかいらねーよ。黙って私のフリートークを聞いときゃいいんだよ、タコスケ」


 どうしても魔王に対しては攻撃的になってしまう。イライラの原因は、自分の無力さにある。私がもっと強ければ、こいつがもっと弱ければ、単純な勧善懲悪で世界は完結できたのに。私が弱くて、こいつが強いばっかりに、魔王と勇者のラジオが流れてしまっている。


 ダメだ。思考がまとまらない。フリートーク、何話すかな。スターツやアパーやルナさんみたいなしゃべりが、私にもできるかな。


 答えが出ないまま、CMが明けた。

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