勇者さん、わがままはいけません
「嫌だね」
「そこをなんとか」
牢屋の外から鉄格子にしがみつき、嘆願してくるゾンビのスターツ。
「勇者さんに来てもらわないと、番組が成り立たないんですよ」
「知らねーよ。そもそも私、魔王とラジオやるなんて言ってねーし」
「困ったなあ。どうしよう」
右往左往するスターツのそばを、ウソコがぺこりとお辞儀して通り過ぎ、牢屋の鍵を開けた。
「勇者さん、わがままはいけません。お仕事に行ってください」
「嫌だね。私はもう寝る」
背を向け、昨日届いたばかりの新品の毛布をかぶる。
「働かざる者、食うべからずという言葉を知っていますか? 明日から三食食事ぬきますよ」
「うっ」
それは非常に困る。もはや私はウソコの手料理なしでは生きられない体になってしまっている。万能食のキポの実で満足していた頃にはもう戻れないのだ。
「ギャラが入れば、欲しいものだって買えますよ」
確かに金はめちゃくちゃほしい。
「それに、力を認められ、求められているなら、行くべきです」
とどめの正論に私は立ちあがらざるを得なかった。
「わーったよ。行けばいいんだろ、行けば」
「やった。ありがとうございます。こっちです」
狂喜乱舞するスターツのあとをついていく私に、ウソコがお辞儀する。
「いってらっしゃいませ」