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支持率98%魔王とやさぐれ女勇者のカオスレイディオ  作者: 仙葉康大
第二章 生き様フリートーク
10/50

スライムは機械好き

 分厚い魔導書を閉じて床に置く。読書は退屈にはもってこいだが、集中力を要するから疲れる。もっと受け身な娯楽があればいいんだが。


「勇者様、お客様です」


 ウソコの後ろにぴょこんと現れたのは、空のように真っ青なスライムだった。


「遊びに来たよ」

「えーっと」


 こいつは確か、ラジオのときに機械をいじくりまわしてた奴だ。


「アパーだっけ?」

「そうだよ。名前覚えてくれたんだ。サンキュー。勇者はいい奴だね。オイラ、いい奴は好きだよ」

「そりゃどうも」

「退屈してると思ってさ、色々持ってきたんだ」


 アパーは大口を開けると、いくつもの機械を吐き出した。


「きたねーな」

「へへへ。どの機械も防水仕様だから安心してよ。これなんかいい音出すよ」


 アパーが機械の箱の上にのり、体を凸凹に変化させてボタンを押すと、歌が流れた。ビブラートがかかっているその声は水のようにやわらかく、やさしい聞き心地。


「セイレーンが歌ってるんだよ。生で聞くともっとすごいけど、おいらはどっちかって言うとゾンビが歌うヘヴィメタの方が好きかな」

「この大陸にはいろんな音楽があるんだな。すげえな」

「え? あっちの大陸にはなかったの?」

「音楽は大天使様たちと神様の尊さを歌い上げる曲が一曲あっただけだよ」

「一曲だけだなんて、そんなのオイラだったら耐え切れなくて死んじゃうかも」


 アパーはベロを出して力尽きたような顔をして見せた。と思ったら一変して笑顔になる。


「よかったらこのコンポあげるよ。パーソナリティ就任祝いのプレゼント」


 音楽が聴けるこの機械の名前はコンポと言うらしい。


「くれるっつーならありがたくもらっとくけど、私、パーソナリティになんてならねえぞ」

「なんでだい? あんなにしゃべれるのに」

「前回のラジオで言いたいことは全部言ったし、しゃべりたいことなんてもう残ってねーんだよ。フリートークなんて無理無理」


 手を振って否定する私をアパーが見つめる。


「大丈夫だよ、勇者は」

「なんでそんなことてめーに言い切れるんだよ」

「だって魔王様とあのラジオのリスナーたちに見込まれたんだから、フリートークぐらいできないわけがないじゃん」


 何だその理由。そんなに魔王とリスナーは偉いのかよ。ふてくされる私を歌声だけが慰める。

コンポを牢屋の中に設置し、使い方を教えてもらう。スライムはまあとにかくしゃべるしゃべる。


「機械、好きなんだな」

「かっこいいからね」

「どこがだよ」

「だってこんなに硬いってすごいじゃん。オイラは、スライムだからさ」


 どうあがいても機械のように硬くはなれないってか。別にいいだろ。


「おいら、イスハカイ大陸にも行ったことあるんだよ」

「マジかよ。つーかあの大陸、基本的に生き物お断りじゃなかったっけ?」


 この世界にある第三の大陸イスハカイ。別名、機械の大陸。厳しい入国審査があり、観光や視察を目的とした入国は認められない。唯一、入国を許される理由が――。


「魔王様が商談しに行ったとき、おいらも一緒に連れていってもらったんだ。知ってるかい、勇者。イスハカイには機械の人間がたーくさんいるんだよ」

「そりゃよかったな」

「よくないよ。だってその機械人間たちはちっとも楽しそうじゃないんだもの」


 アパーと魔王は商談成立後、特別に工場の中を見学させてもらったらしいのだが、そこの工場で作業をしていた機械人間たちの表情があまりに死んでいたから、アパーはイスハカイの王に尋ねたらしい。どうしてあんなに悲しそうなのか、と。


 イスハカイの王は答えた。


「機械人間に悲しいとか楽しいとかそういった感情はございません。毎朝六時に起きて工場に行き、機械を作り、定時になったら家に帰り寝る。その繰り返しこそ一般的な機械人間の人生なのです。かくゆう私も単調な日々を過ごしていますが、何の不都合もございません。我々はとても満たされています」


 休みも給料もなし。ただし残業や早出もなし。時計が時を刻むよりも正確無比に規則正しく、壊れるまで働き、壊れたら直してもらい、また働く。


 聞いているだけで気が狂いそうになる。


「それで、てめーはどう思ったんだよ」

「嘘だって思ったね。きっと機械人間はまだ気づいていないだけなんだ。感情というものに。だからおいら、魔王様に頼んだんだ。機械人間たちのことを。そうしたら魔王様は任せろって言ってくれたんだ」


 かくしてイスハカイ大陸とユーラク大陸の間で通商条約が結ばれたという。内容は以下の通り。イスハカイ大陸は機械類をユーラク大陸へ輸出する。一方、ユーラク大陸はイスハカイ大陸へ娯楽作品を輸出する。双方、一定の限度をもってこれを拒んではならない。


「今ではね、機械人間たちは工場での作業中、ラジオを聞いてるんだって」

「まじかよ」

「おいらは、機械を使うたびに機械人間たちの無表情を思い出す。あの無表情が笑顔になるようなラジオを届けてやるぞって思って毎週の放送に臨んでるんだ」


 目に光を宿してそう言い切るアパー。私は目をそらす。


「勇者は誰か笑顔にしたい人とかいないの?」


 大天使タリナイ様の微笑みが脳裏に浮かんで消えた。


「いねえよ」

「いつかそういう人ができたらいいね、勇者にも」


 難しいだろうな。私には。

 セイレーンの歌が終わり、コンポが曲を切り替えた。巨人の歌う演歌がやけに心に沁みた。


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