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 里沙の親友、杏奈がいなくなったのは3日前、

 杏奈と里沙は小さい頃からの幼馴染だった。


「こんな言い方をするのはあまり良くないんだけど、杏奈の家はお世辞にもあまり……裕福ではなくて。兄弟も多かったし。だから私が何かと世話を焼いたり、いろいろしてあげてたわ。」


 よく手入れされた長い髪を、綺麗に整えられネイルが施された爪がそっと撫でる。


「2年生に進級したばかりのある日のことだった。」


 杏奈が嬉しそうな顔をして里沙をカフェに誘った。


「彼氏ができたの。そう言った彼女はとても可愛かったし、幸せそうだった。から、私も彼女を精一杯祝福した。」


 なのに、それから3日後、里沙は突然いなくなった。


「私の親友を探してほしいの。」


 祈るように指を組み、里沙は男に繰り返す。

少しの沈黙の後、男はその左耳のピアスにそっと触れた。


「本当に?」

「え?」

「本当に探してほしいの?」

「何を言ってるの。だからさっきからそう言ってるじゃない。」


 訝しげな視線をおくってくる里沙に対し、男は嘲笑とも何ともつかない笑みを浮かべる。


「幸せな彼女が嫌だったんじゃないの?」


一瞬、里沙から表情が抜け落ちた。


「……意味が分からないわ。」

 

 辛うじて発した里沙の指が小刻みに震える。祈りの形のまま組まれた指は、杏奈のためというより今や自分のために祈っているかのように男には見えていた。


「じゃあわかりやすく単刀直入に言うけど……自分より貧乏で、いつも自分より不幸せで、自分が幸せにしていたはずの親友が、突然自分より幸せに、しかも自分の手の離れたところで幸せになっていくのが許せなかったんじゃないの?」


「そんなことあるわけないじゃない!!」


立ち上がり、ダン、と机に手を打ち付けた音が響く。その大きな音と、思わず両手を挙げた男の姿にいくらか冷静さを取り戻し、里沙は再び椅子に掛けた。


「……親友の幸せを喜ぶのは当たり前のことでしょう?変なことを言わないで。そうね、そうね、相手の男の方に少し嫉妬はしたかもしれない。私の可愛い杏奈を取らないで、ってね。」


「当たり前……ね。」


 里沙に聞こえないほどの声で男は小さくつぶやくと、ふっと初対面の時のような柔和な笑みを浮かべた。


「ごめんね。少し意地悪し過ぎたよ。質問を変えるね。なぜ3日前からいなくなったとはっきりわかるのかな。」


「私と杏奈はいつも行動を共にしてて、授業をさぼったりしないまじめな彼女が講義に2コマも来なかったの。ラインをしても既読にならないし。家のチャイムを鳴らしても出てこないし。」


「それこそ、新しい彼氏と遊んでるんじゃないの?」


 組まれたままの指に長い爪が食い込む。隠しきれない苛立ちが里沙の長い足から机を揺らした。


「違う、彼女はそんな子じゃないの。彼氏ができたからって私をないがしろにするような子じゃ――――そんなのは杏奈じゃないの。」


「ないがしろに、されたと思っている?」


「だから、杏奈にはないがしろにされたことなんてないの。杏奈はいなくなったの。ないがしろにするような子は、杏奈じゃないから。違う違う違う。だから、そう、杏奈は、」


 揺れる机、血のにじむ指、上ずった声にパニックに陥った里沙の顎を男がつかむ。


「ねえ、僕の瞳を見て。」


 一瞬、正気に返った里沙が息をのむ。その瞳の先、男の開いた瞳は左右の色が違っていた。


「あなた、の、目……」


「そう、僕の左蒼の瞳はあなたの過去を、右紅の瞳は未来を見ることができる。」


 そう言ってゆっくりと右の瞳を閉じ、左の瞳を開く。逃げることもそらすこともできないまま、その澄んだ瞳が真っ赤な嘘を映し出した。


「犯人は、君だね。

 あなたの家に彼女はいる。そうでしょ?」


 否定も肯定も、息をすることさえ忘れて固まる里沙に、男は蒼い瞳を閉じ、今度はゆっくりと紅い瞳を開いた。


 紅い瞳が、里沙を映す。否、里沙の瞳が紅い瞳の中のナニかを、見つけた。瞬間、


「あっ、っあっああああああああああああああ!!!!!!」


 里沙が絶叫した。


「ッご、っ、ごめんなさい、ごめんなさい。ごめんなさい。杏奈、あんな、あんな……」


 しゃくりあげ、嗚咽を漏らし、その中で謝罪と親友の名前を繰り返す里沙に、男はもう一度、先ほどの質問を繰り返した。


「犯人は、君だね。」


「ええ、そうよ。犯人は私。杏奈は私の家にいる。私が連れてきた。私が杏奈を閉じ込めた。いなくなったのは、私のせい。私が犯人。


 でも、でも、でも、私は"まだ"、杏奈を殺していない。まだ、引き返せる。まだーーーーーー」


 それきり静かになった、紅を映した里沙の瞳から涙が落ちる。泣きながらも笑みを浮かべ、誰かに謝り抱きしめるような仕草は、彼女がもうこちらの世界に「帰れなく」なったことを示していた。


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