うろたえる墓守
ああ、道はここまでだ。ここから先は、この沼のなかを進まないといけない。深いところで腰くらいだ。歩いて渡れないことはないが、嬢ちゃんには厳しいだろうな。沼から出たときには絶叫ものだ……ああ、もちろん毒蛇もいる。
沼を迂回? できないことはないが危険だな。斜面を転げ落ちるのも怖いが、ダニも怖い。くいつかれたら外科手術でないと取れないダニもいるからな。運が悪ければ、病原菌や寄生虫のおまけがつく。
わかったかい? そう、ヒルに血を吸われたこともない嬢ちゃんは、ここでリタイヤだ。あきらめて下山するといい。奥にいっても古い墓があるだけで、ばえる写真とやらは望めねえよ。
なに、ちがう? 写真じゃない? まあとりあえず歩いてログハウスまで戻ろうや。駅までは車でおくってやる。俺も買い出しにでたいからな。そのついでだ。
ああ、俺は墓守だ。こうみえても、このあたりの地主でな。先祖代々、山の奥にある古い墓を管理している。まあ見張り番だな。むやみに人が足を踏み入れないようにしているのさ。虫やら獣やら、いろいろと危険だからな……ああ、墓を守るついでに、人間の命も守ってるってことだ。
もっとも、自殺志願者ですらほとんど近寄らない土地柄、人間を追い払った経験なんて……いや、先月も、嬢ちゃんみたいな若い子がきてたな。
ああ、疲れたのなら休んでいくといい。そこの椅子にでも座ってくれ。うまいタンポポコーヒーでもいれてやろう。心配するな、甘いものもある……おいおい、山を歩いたんだぞ。ハイカロリーな激甘に決まってるだろうが。
それで、なんで嬢ちゃんはこの山に入ろうと思ったんだ? 占い? いや画面をみせられてもな……なんだこの、アニメの女の子は? ボイスロイド? そのボイスロイドとやらが、占い結果を読み上げると……ほう、そんなに当たるのかい。
ようするに、勝手に送られてきた占いでなにもかもうまくいっていたのに、占いメッセージが途絶えたせいでなにをどうしていいのかわからなくなった。で、追いつめられたところにアニメ占い師がふたたびあらわれて、一生うまくいく生声メッセージを受け取りたければ、この山の遺跡までくるようにいわれたと…………あれ、これ封印だいじょうぶか?
よし、お互い、ちょっと落ち着こうか。
いやいや、墓守だよ? 奥にあるのは古い墓だから。そんな遺跡とかじゃないから。墓地で生声メッセージとか、聞こえちゃだめだろう? なに呼び寄せられてるの? というかなんで呼び寄せてる? これほんと封印だいじょうぶなのか? だいぶ緩んでないかこれ?
いや、先月も嬢ちゃんみたいな子が、位置情報RPGとかいうゲームのために入ろうとしたんだが……そう、なんたらGOとかいうゲームのためにな。もしかしてあれも、運営会社のミスじゃなかったのか? というか、太古の魔物のくせに、なんでおまえ、そんなにITを活用してるんだよ……。




