6話「旅立ち」
午前9時に投稿する予定と言っていましたが、用事で投稿出来ませんでした。申し訳ありませんでした。
リーゼによる修行が開始されてから、どれくらいの時が経過しただろうか。
「ガルルァァァァァァーーーー!!!」
「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
いつもの様に、ウルフは何本目になるのか分からないほど振り続けている木刀を手にして、モンスターと交戦していた。
修行が始まってからは、本当にウルフは殆ど休みを取ることなく永遠とリーゼや『魔族の森』に生息する数多のモンスターを木刀で対峙していた。
現在、ウルフが相手にしているのはCランクモンスターである『マッハジャガー』。名称通り、素早い攻撃を得意とするモンスターだ。
『マッハジャガー』はウルフの周りをビュンビュン!!と飛び回り、攻撃のタイミングを伺う。本来ならば、自慢のスピードで敵が戸惑っているところを狙うのだが…………
「ーーーーーはぁ!!」
「グルァ!?」
ウルフはまるで、目に追えないほど素早く動き回る『マッハジャガー』に対し、まるで見えてるかのように木刀を突き出す。
突き出した木刀は的確に『マッハジャガー』の首元に突き刺さり、ドサッと倒れた。ウルフは近くまで接近し、様態を確認するが死んではおらず、気絶しているだけだった。
ウルフはこの修行を通じて、確実に実力は以前と比べて大幅に上がっていた。
毛が生えた程度であった剣術は、リーゼとモンスターと交戦する度にみるみると上昇し、今では自分なりの戦い方を見出し、それを中心的に磨いてきた。
しかも、彼の五感も修行によって更に大幅に鋭くなっていた。
先程の『マッハジャガー』の動きも見切れたのも、3.0まで上がった視力のおかげであった。
「見事な闘いだったよ」
「ッッ、リーゼ師匠!!」
ウルフの戦闘の一部始終をこっそりと見ていた彼の師匠であるリーゼはパチパチと拍手しながら姿を現した。
「もう休息は大丈夫なんですか!?」
「うん。君がモンスターと闘っている間に十分に休ませてもらったよ。」
それに…………、とリーゼは腕を組み、倒れている『マッハジャガー』を目にしながら言葉を出す。
「そろそろ、ここにいるモンスターも君には適わないと思ってきている頃じゃないか?」
「そんな!僕なんてまだまだです。もっともっと、精進しないと!!」
ウルフはそう言って、木刀を構える。
「師匠!!今回もよろしくお願いします!!」
リーゼが休息から戻ってきたということは、今度は彼女が相手になってくれる、ということである。
そのため、ウルフは張り切っているがーーー
「終わりだよ。」
「……………え?」
ウルフは目を点にする。それを見て、リーゼは苦笑いしながら言葉を続けた。
「本日を以て、君の修行は終わりだ。数時間後に君にはここを出て行ってもらう。」
「えぇえええええええええええええ!!?」
突然の修行終了発言に、ウルフは目玉を飛び出しながら大声を上げる。驚いて当然だ。なにせ、本当に何も報せも告げられることなく、唐突に今、言われたのだから。
「どうしてですか!?」
「どうしてって………、もう君が強くなったからに決まってるじゃないか。」
以前は、低ランクモンスターにすら勝てなかった1人の少年が、今では高ランクモンスターを相手でも十分に戦えるようになるまで強くなることが出来た。
これ程の強さを手に入れたならば、冒険者として再び活動した時に問題なく任務に全うできるとリーゼは判断した。
それにーーー
「6時間27分18秒。」
「え?」
未だに修行終了の発言に困惑しているウルフに対して彼女はある時間を口にした。
「これが、何の時間なのか分かるかい?」
「い、いえ…………。」
「君がこの3年間。修行を行わなかった総時間だ。」
「ーーーーーッッ!?」
リーゼの言葉にウルフは言葉を失った。まず、修行が始まって3年という月日が経過していた、ということにも驚く。彼の中では、1年半ぐらいしか経っていないと思っていたからだ。
それに、3年………日にちに直すと1096日。そして、さらに時間に直すと26304時間になる。そんな長い時が流れていたのにも関わらず、ウルフが修行をしなかった時間はたった6時間と少し。これは異常という範囲を大いに超えてしまっている。
「だから………今日で修行はおしまいだ。」
「………分かりました。」
自分のことを想っての修行終了の理由に、ウルフは渋々と納得した。
「よし。では今から水浴びにしに行こう。勿論ーーー」
「一緒に………ですよね。」
「ッッ………、分かってるじゃないか。」
ウルフは観念するかのようにリーゼに言葉を出す。この3年間、彼女の謎の露出癖にウルフは悔しくも慣れてしまった。何百回とリーゼとは木刀で打ち合いをしたが、そのうち4割は上半身裸だったのだ。流石に慣れてしまい、彼女の裸を見ても何も抵抗を感じなくなっていた。
久しぶりに中心部まで足を運び、湖の傍で来ていたボロボロの服を脱いでいく。
「ほぉ、見違えたな………」
ウルフの身体を見て、リーゼは顎に手をつけながら賞賛する。あんなにヒョロヒョロだった身体は、今では戦闘によって鍛え上げられ、見事なマッシブ体型へとなっていた。身体中の至る所に、傷跡も残っている。
さらに、15歳になったウルフの身長は更に伸びて170近くまで伸びていた。
しかし、成長したのにも関わらずウルフの中性的な顔つきは相変わらず変わっておらず、むしろ3年前に比べて女の子らしさが上がってしまっていた。それに、ウルフは気付いていないようだが………。
ちゃぷ………と、2人で湖に身体を浸ける。ウルフにとって、かなり久しぶりの水浴びの為、とても気持ち良く感じていた。
「すっかり……髪の毛が色落ちしてしまったね」
「え?………あ、本当だ。」
隣で湖に浸かっているリーゼはウルフの髪型に指を差す。
彼女の言う通り、修行前は黒髪だったウルフの髪型は長期間の修行によって色落ちしてしまい、綺麗な白髪頭へとなってしまっていた。
ウルフは前髪を指でクルクルとさせ、少しだけ嬉しそうに言葉を出す。
「でも………、師匠と同じ髪型の色なんで僕はむしろ嬉しいですね。」
「……………良いこと言ってくれるじゃないか〜。」
予想外の返答が返ってきて、リーゼは嬉しそうに微笑みながらウルフに抱き着く。
「本当に………よく頑張ったな」
「ーーーーーッッ……」
抱き着いた状態で、リーゼはウルフに向かって小声でそう呟いた。
先程も述べた通り、ウルフの修行は彼の加護があるからこそ成し遂げれるものではあるが、それは表向きな話であり、精神的に耐えれなかった場合も可能性としてはあった。
痛かっただろう。苦しかっただろう。辛かっただろう。逃げ出したいと思った日ももしかしたら、あったかもしれない。
それでも…………ウルフは逃げることなく、この3年間に渡った修行を最後までやり遂げることができた。
「師匠………」
「………そろそろ出ようか。色々と渡したい物がある」
リーゼはそう言葉を残して、先に湖から上がる。ウルフもあとを追うようにして湖から上がった。
♢♢♢♢♢
「わぁ!!なんですか!?これ!!」
湖から上がり、いつもの様に焚き火で身体を温めたあと、ウルフはリーゼから衣服を渡される。
渡された衣服を着てみると、それは立派な装備服であった。
灰色のTシャツの上に赤と黒のチェック柄の少し大きめのローブを羽織るというお洒落な装備服だ。ウルフにとっても似合っていた。
「『ブラット・プリムラ』。あらゆる属性の耐性繊維で私が創り上げた、世界にたった1つしかない最上級のオーダー品さ。」
「『ブラット・プリムラ』…………。」
「それに、これも持っていきたまえ」
リーゼはウルフにあるものを「ほいっ」といいながら投げ付ける。
「わわ………」
落とさないようにと、慎重に受け取るウルフ。手にしたのは…………
「刀………??」
リーゼがウルフに渡したのは1本の刀であった。刃長が1m以上あり刀身が紅いという特殊な刀であった。
「これは昔、私の親友が打ってくれた刀だ。名は『赫灼丸』。」
「え!?いいんですか!?そんな大事なものを僕なんかに……」
「あぁ。結局、私はこいつを使いこなせることは出来なかったからな。けど………、修行を積んだ君なら使いこなせると私は信じている。」
リーゼは赫灼丸を見つめたまま、後悔がないかのようにら言葉を出していく。それを見て、ウルフも覚悟を決める。
「……………ありがとうございます。大事に使わせていただきます。」
赫灼丸を手にしたウルフは、リーゼにお礼を言いながら腰にかける。
こうして、ウルフは準備が整い、いつでもここから旅立てるようになった。
「少年………」
「師匠………」
2人は向かい合う。リーゼは旅立つ弟子を笑顔で送りあげたいという気持ちに対し、ウルフは少し寂しそうな表情を浮かべていた。
「………おいで。」
ウルフの気持ちを察したリーゼは両手を広げる。それを見たウルフは、躊躇わずに、吸い込まれるようにしてリーゼの胸元に顔を寄せた。
「君と過ごしたこの4年間………、とても楽しかったよ」
「師匠………」
「私にはまだ、ここでやる事があるから出られないのが残念だ。」
「師……匠」
我慢の限界だった。ウルフは彼女の胸元で歯を食いしばって耐えているつもりだが、それでも瞳からは涙がポロポロと流れていた。
「ははは、4年経っても泣き虫なところは治らなかったね」
リーゼは笑いながら、ウルフから流れる涙を指で拭き取る。
そして、彼女はウルフの顔を見ながら言葉を出した。
「胸を張りたまえよ、少年。君が過ごしてきたあの時間は、確実に君の為になっている。だから、笑え。笑うんだ。涙なんか流すな。そんな顔で君とは別れたくないよ。私は君の笑ってる顔を見ながら見送りたい。」
「…………はい!!!」
ウルフはまだ残っていた涙を腕で強引に拭き取り、笑顔になりながらリーゼの顔を見て返事をする。
「うん、素敵な良い笑顔だ。では、そんな弟子を私達で見送ろうじゃないか。」
「達?」
数年前にも何か同じやり取りをしたな、とウルフは感じながら言葉を出す。
「君を見送りたいのは、私だけじゃないってことさ。ほら、見たまえ」
リーゼはウルフの背後に指をさす。ウルフはそのまま、後ろの方に振り向くとーーー
「ーーーーーッッ!?」
振り向いた先の光景に、ウルフは衝撃を受ける。
なぜなら、ウルフの背後には『魔族の森』に生息する数多くのモンスター達が道を作るように並んで立っていたからだ。
どのモンスターも、ウルフと1度は交戦したことがある馴染みのあるモンスターばかりで、その数はおよそ300匹以上。
この森に足を踏み入れた時にウルフを襲った『悪魔虎』もいれば、ついさっき交戦した『マッハジャガー』も並んで立っていた。
「今は君を好敵手でもあり家族と認めているんだろうね。」
「みんな…………」
「気性が荒く、目が合った瞬間にどちらかが倒れるまで戦うこの子達が何もせずに、ただ君の旅立ちを見送ろうとするなんてね。私も長年、ここにいるが初めてだ。それほど、この子達は君に何かしらの影響を受けたんだろうね。」
この3年間。ひたすら1人の少年と戦い続けたこのモンスター達は言葉は通じなくても、何か互いに通じる合えるものがあったのだろう。
「ピャーーー」
「あ、ヒナ!!」
並び立っているモンスターの大軍の中から、1匹のモンスターが鳴き声を上げながら姿を現し、ウルフの方へと向かう。
龍のような顔つきに、茶色の鱗が特徴的なモンスターであった。
「『グランドドラゴン』………か。確か、そんな子もいたね」
『グランドドラゴン』とはDランクモンスターであり、翼がない地龍型の1種でもある。人に懐きやすく、普段は商人とかに飼われ、荷物などを運搬している。
このモンスターとの出会いはウルフが修行を休んでいる時に、傷を負った状態で見つけ、治るまで介抱したことによって彼に懐いたことが始まり。
ウルフ自身も、愛着が湧いてしまい、"ヒナ"と名前をつけて接してきていた。
「ピャーーーー!!!」
「困ったな…………。」
ヒナは、まるで行かないで!と言っているかのようにウルフの前で泣き続ける。それを見て、ウルフは困惑しながら頬をかいていた。
「連れてってあげたらいいじゃないか。」
「え?」
落ち着かせるために、ヒナを撫でていたウルフを眺めながら、リーゼは言葉を出す。
「グランドドラゴンは長距離移動や荷物運搬、見張りなどで色々と役に立つからね。一緒にいて損はないはずだよ」
「なるほど………」
ウルフは頷きながら、ヒナの顔を見る。
「ヒナ………、僕と一緒に来るか?」
「ピャァーーーー!!」
ウルフがヒナに同行するかどうか聞くと、直ぐにヒナは大きく雄叫びを上げた。どうやら、愚問だったようだ。
「分かった。これから、よろしくな。ヒナ!」
「ピャア!!」
「う、うわぁ!?」
一緒に行動が出来ることが嬉しいのか、ヒナは嬉しそうに鳴いたあと、ウルフの首元を咥えてピョイ、と上の方に放り投げ、自分の背中へと着陸させる。
「い、痛いよ、ヒナ〜」
「あはは。それほど、嬉しかったのだろうね。そのままヒナの背中に乗せてもらうと良い。」
リーゼは笑いながらそう言って、ヒナの頭を優しく撫でる。
「それじゃあ、師匠。僕はそろそろ行きます」
ヒナに乗りながら、荷物に忘れ物がないかチェックしたあとウルフはリーゼに告げる。
「あぁ。………あ、最後に一つだけ」
「はい?」
「私のことは、出来るだけ言わないで欲しい。よろしく頼むよ」
リーゼがそう願うと、ウルフは少しだけ嫌そうな表情を浮かべる。彼女はウルフにとって人生を変えてくれたと言ってもおかしくは無い人物だ。もし、彼が本当にSランク冒険者になることが出来た時、彼はリーゼとのやり取りを話そうと思っていたからだ。
「師匠がそう言うなら……….、分かりました。」
「うん、いい子だ。本当に私は君のような子を弟子にして誇りに思うよ」
「僕も、リーゼさんが師匠になってくれたことを嬉しく思います。本当にありがとうございました。」
「こちらこそ。………では、行きたまえ、少年!!」
「はい!!師匠…………行ってきます!!」
笑顔でウルフはリーゼに言葉を出したあと、ヒナに指示を出す。それによって、ヒナは走り出す。
「また、会いに来ますねーーー!!!」
落ちないようにヒナの背中を、片手で掴みながら、もう片方の手をリーゼに向かって振る。リーゼも小さくではあるが手を振って旅立つウルフを見送った。
「みんなも元気でね」
「「「ガァァァァァァァァァ!!!!」」」
通り過ぎる際に、並んで見送るモンスター達にも声をかけるウルフ。言葉を聞いてモンスター達も空を向いて咆哮を上げた。
「よし。行くよ、ヒナ。冒険者ギルドへ!!」
「ピャア!!」
1人の師匠と大勢のモンスターに見送られたウルフとヒナは『魔族の森』を抜け、冒険者ギルドへと向かうのであった。
♢♢♢♢♢
「また会おう………か。」
ウルフを見届けたリーゼは、その先を見つめたままボソリと言葉を呟く。
そして、クルリと振り向き
「残念だが………、次会うときは恐らく、君の師匠ではなく敵としてだろうね。」
ゆっくりと歩く。彼女がこの4年間、ウルフと関わってきた思い出を頭の中で再生させながら。
「少年…………、いやウルフ君。」
「次に会った時は……………
私を殺してくれるかい?」
そう…………、リーゼは意味不明な言葉を呟いて、足を止め立ち尽くす。
「なーんてね。何を言っているんだろうか、私は。」
リーゼは頭を掻きながら再び足を進める。
その後、彼女は『魔族の森』の奥へと姿を消して行った。
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