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12話「VS『灼熱の冒険者』終」

 「だぁぁぁぁ!!勝てなかったぁぁぁぁぁぁ!!!」


 バタンと倒れ込んだウルフは腕を目元に当てて、大声で叫びあげる。表情を見た感じ、相当悔しそうに見える。


 実質、あの試験の勝者は紛れもなくウルフ本人だった。あと1秒………いや、コンマ秒さえあれば彼の木刀はチナツの胸についていた緑バッチに当たり粉砕することが出来ていた。今回ばかりはウルフに運が無かった。


 「…………」


 悔しがるウルフを少し離れたところで、最後の最後に発動させた『火成岩の鎧』を解除させたチナツが見つめる。


 一応、ルール上ではチナツの勝利となっているが、彼女のプライド上、それは決して許されない。


 だからこそ、彼女は自分に言い聞かせる。




 自分は負けたのだ。目の前にいる、この少女に…………と。何度も何度も。




 「………………悔しい」


 言い聞かせているうちに、彼女は無意識にそう呟いていた。よくよく思い出してみれば、チナツは"敗北"というものを随分と長い間、味わっていなかった。


 勿論、チナツより実力が上な人間はゴロゴロといる。当然、彼女も負けている時はあった。


 しかし、元々ある身体能力の高さと"マグマ"という強力な加護によって、自分だけの戦い方を見つけ、実力を伸ばした時には彼女はほぼ負け無しとなっていた。



 (まだまだだな………。私も。)



 チナツは恐らく、この久しぶりに味わった"敗北"を忘れることはないだろう。負けて悔しがらない奴なんてこの世にはいない。むしろ、彼女はこの"敗北"を糧にして、更に日々の鍛錬に励むはずだ。


 チナツは頬を緩ませながら、ブルノームに視線を向ける。それに気が付いたブルノームは彼女の考えを理解して、肯定の意味を込めて軽く頷く。


 それを見たチナツも頷き、未だに「くそぉぉぉぉ!!」と叫んでいるウルフの元へと歩く。


 「リーフ………だっけ??」


 「あ、はい………。」


 チナツに偽名を呼ばれたウルフは叫ぶのをやめて、彼女の方に顔を向ける。



 「君との決闘…………、とても楽しかったよ。君、凄く強いね」


 「え?」


 彼女から出された予想外の言葉に思わず驚くウルフ。まさか、自分よりも格上であるAランク冒険者に褒められるなんて思ってもみなかったからだろう。


 「そんな、自分なんてまだまだですよ。実際、チナツさんに勝てなかったですし………。」


 「謙虚にならなくてもいい………。あの試験は紛れもなく君の勝利だった…………。」



 だから、と言ったチナツはピシッと胸に付いている緑のバッチを強引に外しーーー



 「合格だよ…………。リーフ。」



 「ーーーーーーッッ!?」



 バキッと握力をかけて粉々に粉砕させた。


 「合………格?」


 信じられないような表情を浮かべるウルフ。


 それもそのはず。確かに『悪魔の森』にて修行をし、実力を確実に身につけたウルフだったが、なにせ、彼は最低のド底辺から始まったのだ。


 それゆえ、ウルフは自分は周りよりも下な存在であると認識してしまう癖がついてしまった。格上の者に臆することなく立ち向かう度胸があるというのにも関わらず。


 だが、ウルフは勝ち取ったのだ。Aランク冒険者を相手に。だから、冒険者試験に合格した。


 (私に…………加護を発動させた時点で…………合格は決まってた……………けどね。)


 チナツはプルプルと震えるウルフを見ながら心の中で呟いたが、決して口には出さなかった。




 『"無能"と言われてきた僕でも……………Sランク冒険者になれますか??』




 『なれるよ。君なら………絶対に。』




 遂に………遂に念願のSランク冒険者になるという夢に1歩進むことが出来た。小さいように見えるが、"無能"と呼ばれ続け、1度はその夢を諦めたウルフにとっては大きなものだった。


 「合格かぁ…………。良かったぁ…………。」


 ウルフは涙を浮かばせながらも、すごく嬉しそうに笑った。それを見て、釣られてチナツも微笑む。


 「では、リーフ様。」


 "土"の加護でなんとか西の広場の補強工事を完了させたブルノームはウルフに近付き、声をかける。


 「この後、冒険者の認定式がございます。なので、ギルドへとお戻りになってください。」


 「認定式?」


 聞き覚えのない単語を聞いてウルフは首を傾げる。


 「はい。各4つの広場にて合格した者たちをギルドの方で集まってもらい、そこで認定式を行うのです。とは言っても、そこでギルドに関する説明とギルドカードを配布するだけなのでそんなに時間はとりません。」


 「分かりました。ありがとうございます」


 ブルノームからの説明を受け、理解したウルフは頭を下げる。その後、早速ギルドへと向かおうとしたがーーー


 「すげぇな、嬢ちゃん!!」


 「え?」


 さっきまで観戦していた元・受験者たちが集まってウルフに声をかける。


 「まさか、あのAランク冒険者のチナツさんと互角に戦えるなんて。女の子なのにすげぇよ!!」


 「え!?え!?」


 「女の子が頑張ってるのに、すぐにリタイアしちまったのが情けねぇぜ!!」


 「ちょ………」


 「同じ女の子として聞きたいけど………、あの剣術ってどこで習ったの??見たことが無いけど………。」


 「わわっ………!?」



 周りに一斉に声をかけられ、混乱しそうになるウルフだったが、なんとか逃れ、早口で言葉を出す。



 「すみません、皆さん!!お話したいところですけど、認定式があるのでそっちの方に行きますね!!あと、僕………………男ですから!!」



 ウルフはそう言ったあとに(最後の一言だけすごく強調した。)、謝罪の気持ちを込めて頭を下げ、ギルドの方へと向かった。



 「「「「「「「えぇえええ!!」」」」」」」



 ウルフの言葉を聞いてた者のほとんどは目を見開いて驚きの声を上げる。ウルフは見た目は女子にしか見えないため、仕方がないのかもしれない。むしろ、初見でウルフを男だと認識する方が難しいだろう。


 「………嘘でしょ?」


 あのチナツさえも、タラりと汗を垂らして驚きながら呟いていた。


 そんな中、この西の広場で唯一、ウルフを男だと認識していたブルノームは胸ポケットからギルドカードを取り出し、メッセージ機能を作動させる。


 (さて………、ここはもう大丈夫みたいですね。他の広場はどうなってるのでしょうか??果たして合格者は…………)


 試験を行ったのは西の広場だけではない。東・北・南の広場でも同様に冒険者試験行っていた。


 他の3つの広場も試験官は西と同じくAランク冒険者が担っていた。


 西の広場の場合、ウルフという希少な存在がいたが、他の広場ではそうにはいかないだろう。冒険者にすらなっていない者がAランク冒険者相手に太刀打ちできるなんてそうない。


 だから、今回の冒険者試験の合格者はウルフだけだとブルノームはメッセージを送り、返信を待ちながら思っていた。


 しかし…………返ってきた返信を見てブルノームは驚愕する。



 「ーーーーーーッッ!!!!????」



 「…………ブルノームさん?どうしたの……-?」


 ブルノームの豹変に気が付いたチナツはギルドカードを凝視していた彼に話しかける。


 彼女の言葉に何も返事はしなかったが、その代わりにブルノームは先程までに凝視していたカードをチナツの方へと差し出す。


 頭の上に「?」を浮かばせながら、そのギルドカードを見てチナツはーーー


 「……………は?」


 信じられないような目で口をこぼす。


 ブルノームのギルドカードに書かれていたメッセージは………







 『 東の広場。合格者1人。


  西の広場。合格者1人。


  南の広場。合格者1人。


  北の広場。合格者1人』







 と、書かれていた。


 つまり、各広場でAランク冒険者を相手に認められた人間がいるということになる。



 (これは…………この先、荒れますね)



 メッセージを見つめながら、ブルノームはそう心の中で呟いた。



 ♠♠♠♠♠



 「むー、どうしたら女の子じゃないように見えるのだろうか」


 タッタッタッとギルドの方へと走るウルフは真剣な表情を浮かばせながら呟く。


 ウルフは自分が女の子だと周りからは勘違いされて欲しくない。そのため、どうすればいいのか考える。


 「思い浮かばない………」


 しかし、いい案が思い浮かばなかったウルフはそのままギルドの方へと到着させてしまった。


 「まぁ、今は置いておこう。それよりも僕の他に試験を合格した人っているのかな………」


 冒険者ギルドの中に入り、とりあえず、先程、対応してもらった受付の女性のところまで行き、事情を説明した。


 すると、彼女にとある部屋に行って欲しいことなので、案内された部屋へと移動する。


 受付の女性曰く、この部屋で認定式を行う場所らしく、既に何人かの合格者が待機しているという。



 「緊張するなぁ………。けど、入らないと!!」



 ウルフは緊張しながらも扉に手をつけてガチャと開き、部屋の中へと入る。



 部屋の雰囲気はなんだか神聖さを感じさせる部屋だった。そして、その部屋にはーーー



 「お。お前も合格者か!!」



 「………………」



 「ひ、ひぃ…………!?」



 3人の男女がウルフを迎え入れるように待っていた。

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